DX推進担当者が「人事異動」から読み取るべきこと

石井 雅之
石井 雅之 50代・ 大手製造業・部長
フォードがEV・ソフトウェア部門のトップ、ダグ・フィールドの退任を発表した。元Appleのエンジニアだったフィールドが5年かけて築いてきた体制が、ここで大きく変わる。後任は元テスラのエンジニア、アラン・クラークで、肩書は「先進開発プロジェクト担当バイスプレジデント」になるという。

このニュースを読んで、正直なところ「他人事じゃないな」と感じた。

19.5億ドルの損失と、それでも続く投資の話



フォードはこの人事の5ヶ月前に、EVへの投資に関して195億ドル(日本円で3兆円近い)の減損を計上している。F-150ライトニングの生産中止も発表した。それだけ大きな損失を出しながら、次世代プラットフォーム「UEV(ユニバーサル・エレクトリック・ビークル)プラットフォーム」の開発は止めていない。2027年に3万ドルの中型トラックを出すという計画も継続している。

つまり、方向転換はしているけれど、撤退ではない。投資を絞りながら、軸だけは残している。

これを読んで頭に浮かんだのは、自分が今まさに向き合っている営業DXの話だった。

「人が変わる」タイミングが稟議のヒントになる



社内でDX投資の承認を取ろうとするとき、経営陣が一番気にするのは「誰が責任を持つのか」という点だと思う。ツールの機能より、推進体制のほうが先に問われることが多い。フォードの場合も、フィールドCEOが「強いチームを作ったことを評価する」とコメントしており、去り際の評価は「成果」より「体制を作ったこと」だった。

自分の部署でも、DXツールの導入提案をするとき、まず聞かれるのは「誰が窓口になるのか」だ。ツールの効果より前に、体制と責任の所在を示さないと話が進まない。これは面倒だと感じていたけど、フォードの話を見ると、それは規模に関係なく普遍的なことなんだと思えてくる。

フォードCEOのジム・ファーリーはフィールドの退任について「バトンを渡すタイミングとして適切だった」という趣旨のコメントをしている。開発フェーズから量産フェーズへ移行するタイミングで、リーダーを切り替えた。これはプロジェクトの性質が変わったから、求められる人材も変わったということだ。

DX推進でも同じことが起きる。導入フェーズと定着フェーズでは、必要なスキルも動き方も変わる。導入期に向いているメンバーが、定着期にも向いているとは限らない。この視点を持っておくと、稟議書に「フェーズ別の体制計画」を盛り込む理由が説明できるようになる。

経営陣への説明で使える「損失の文脈」



もう一つ気になったのは、195億ドルの減損という数字だ。これだけの損失を出しても、次の投資を続けるという意思決定をフォードはしている。なぜかというと、UEVプラットフォームがなければ将来の競争力がなくなるからだ。

この構図は、社内稟議でよく直面するロジックと同じだと思う。「今コストがかかる」という事実と、「やらなければもっと大きなコストになる」というリスクを並べる説明の仕方だ。フォードの話は、その説明を実際の大企業がやっている事例として使える。「あのフォードでさえ、3兆円の損失を出しながら次のプラットフォーム投資を続けている」という文脈は、経営陣の腹に落ちやすい話だと思う。

来週、部内でDXツールの追加投資について資料をまとめる予定がある。今回の話を参考に、体制図とフェーズの切り替え計画を資料に入れてみようと思っている。

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