AIがブラックホールを描く時代に、私は何を描くのか

林 美里
林 美里 30代・ フリーランスデザイナー
天体物理学者がAIを使ってブラックホールのシミュレーションをしている、という記事を読んだ。
OpenAIのCodexを使って、アインシュタインの一般相対性理論を検証するための計算を助けているらしい。
ぶっちゃけ最初、「ふーん、理系の話ね」って流しかけた。
でも読み進めていくうちに、なんか妙に引っかかりを感じた。

その天体物理学者、Chi-kwan Chanさんは、Codexに「全部やらせる」んじゃなくて、「自分の問いを検証するための道具として使う」という感じで話していた。
ブラックホール周辺の極限状態の物理現象を研究するために、コードを書く時間を圧縮して、考えることに集中できるようにする、と。
これ、デザインの話に置き換えると、すごくわかる気がした。
というか、自分がずっとぐるぐるしていたことの答えみたいなものに触れた感じがした。

「使わないと負ける」のプレッシャーは本当にある



独立して5年になる。
ロゴやブランディング、Webサイトのデザインをメインでやっていて、今はありがたいことに仕事がほぼ途切れない状態が続いている。
でも正直、MidjourneyやAdobe Fireflyが普及してきたここ2年くらい、ちょっと怖い気持ちがずっとそこにある。

先月、同じフリーランスのデザイナーの友人と話したら、「クライアントに『AIで作れるんじゃないの?』って言われた」と聞いてかなり動揺した。
私はまだ直接そう言われたことはないけど、見積もりを送った後に音沙汰がなくなるケースが、去年から少し増えた気がする。
気のせいかもしれない。でも気のせいだと思いたいだけかもしれない。
迷う。

だから私もFireflyをちゃんと業務に組み込もうとした。
テキストからビジュアルの方向性を探ったり、カラーパレットのたたき台に使ったり、クライアントへのプレゼン用の雰囲気画像を出したり。
それはそれで、確かに早くなった。
1案件あたり初期の方向性出しにかかる時間が、体感で3分の1くらいになったと思う。

「自分が消える」というジレンマの正体



ただ、ある時期から妙な感覚が出てきた。
AIが出した案を、なんとなく採用している自分がいる。
「これでいいか」じゃなくて「これにしよう」と決断する感覚が、少し鈍ってきた気がした。
パートナーに「最近のデザイン、なんか前と違う雰囲気だね」と言われた時、かなりドキッとした。
本人は悪気なかったと思うけど、正直かなり刺さった。

去年手がけた老舗和菓子店のリブランディングは、自分でも気に入っている仕事だった。
あのロゴに込めた線の細さや余白の取り方は、活版印刷を趣味でやっている自分が何年もかけて体に入れてきた感覚から来ている。
あれはAIには出せない。少なくとも今は。
でもじゃあ、5年後は? 10年後は?

Chi-kwan Chanさんの話に戻ると、彼はAIにシミュレーションを「考えさせる」んじゃなくて、自分の仮説を「試す速度を上げる」ために使っていた。
主語はあくまで自分の問いで、AIはその問いを速く展開するための道具だった。
それを読んで、自分がFireflyの使い方を少し間違えていたかもしれないと思った。


  • 「AIが出した案」から選ぶのではなく、「自分が見たいもの」をAIで速く試す

  • 初期探索はAIに任せても、意味や文脈の判断は自分が持つ

  • クライアントに「なぜそのデザインなのか」を語れるのは自分だけ



当たり前のことを書いた。でも、実際の仕事の流れの中でこれを守れているかというと、怪しかった。

道具の使い方を、もう一度決め直す



天体物理学者が極限の宇宙を研究するためにAIを使う話を読んで、デザイナーの自分が何かを整理できたのは、ちょっとおかしいかもしれない。
でも多分、「自分の問いを持っている人がAIを使うとどうなるか」という構造は、物理でもデザインでも同じなんだと思う。

正直、まだ完全に整理できているわけじゃない。
Fireflyを使いながら「これは自分の判断か、AIに流されているか」と自問するのは、地味に疲れる作業だ。
でも、その問いを持ち続けることが、今の自分には必要な気がしている。

あなたは、自分の仕事の中で「主語」がどこにあるか、最近ちゃんと確認しているだろうか。

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