NVIDIAのPC革命を聞いて、デザイナーの私が感じた静かな焦り

林 美里
林 美里 30代・ フリーランスデザイナー
NVIDIAのCEOジェンスン・ファンがComputexで登壇するというニュースを見た。
Microsoftとの協業と、N1・N1XというARMチップの話だ。
Surfaceラインを「新しいPCの時代」と銘打って打ち出してくる、らしい。
正直、最初は「ハードの話か」と思ってスルーしかけた。

ハードウェアの話が、じわっと自分事になる



でも少し読んでいたら、ちょっと待てと思い始めた。
2012年にNVIDIAのTegraチップを積んだSurface RTが出て、惨敗に終わったのは知ってる。
あれは当時、デザイン系の人たちの間でも「使えない」と言われていた。
クリエイティブ用途でWindowsのARMが動かないのは、単なる不便じゃなくて致命傷だった。

でも今回のN1Xは文脈が違う。
Qualcommが持っていたWindows 11 ARM版の独占ライセンスが終わるかもしれない、という話まで出ている。
そこにNVIDIAが割って入ってくるなら、GPU性能はどうなるんだろうと思い始めた。
AI画像生成のローカル処理、IllustratorやAfter Effectsの描画速度、そういうところが変わりうる。

パートナーに「NVIDIAがノートPC用チップ作るって話、知ってた?」と聞いたら
「それゲーミングPC系の話じゃないの」と言われた。
違う、そうじゃなくて……と説明しかけて、うまく言えなかった。
デザイナーにとってチップの性能変化がどれだけ仕事に直結するか、説明が難しい。

ツールの進化についていく、という疲れ



Midjourneyのバージョンが上がるたびに試して、Adobe Fireflyの新機能を確認して、
ローカルで動く生成AIをテストするためにマシンのスペックを調べて……という作業が、ここ2年ほど続いている。
それ自体は嫌いじゃない。正直、新しいツールを触るのは楽しい。

でも最近ちょっと怖いのは、ツールの更新サイクルに自分が追いつくことを「仕事」だと思いはじめていること。
クライアントのロゴを磨いたり、ブランドの世界観を言語化したりする、あの時間が圧迫されてきた気がする。

先月、5年つきあいのある飲食チェーンのクライアントから
「ロゴリニューアル、AIでさっとできるんじゃないですか」と言われた。
10店舗を超えてきて、既存のブランドイメージとの整合性が複雑になっている案件だ。
さっとできない、というより、さっとやったら後で絶対に困る。
でもその説明をするのに、いつもより少し多くのエネルギーを使った。

消えたくない、でも遅れたくもない



ハードウェアが進化して、ローカルで重い処理が軽々と動くようになれば、
AIツールの活用場面はさらに広がる。
MidjourneyやFireflyをより細かく、より速く回せる環境ができる。
それはたぶん、良いことだ。

ただ、迷うのはここから先。
処理速度が上がって生成クオリティが上がったとき、
自分の手の跡ってどこに残るんだろう、とまた考えてしまう。

活版印刷を趣味でやっていると、印圧のムラとか、インクの乗り方の不均一さが、
「いい」と言われることがある。
デジタルで完璧に再現できないものに、意味を感じる人がいる。
デザインも、そういう感触を持つものでありたいと思っている。

使わないと競合に負ける。でも全部任せると自分が消える。
この2つの間を、今日もうろうろしている。

NVIDIAのキーノートを見終わったら、もう一度自分のポートフォリオを見直してみようと思った。
AIが得意な部分と、自分にしかできない部分の境界線を、改めて引き直す作業として。

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