AIが「動きを予測する」時代に、デザイナーの私は何を残せるか

林 美里
林 美里 30代・ フリーランスデザイナー
MolmoMotionというモデルの記事を読んで、ちょっと頭がぐるぐるしている。

Allen AIが発表したこのモデル、簡単に言うと「映像の中のオブジェクトが次にどう動くかを予測する」AIだ。テキストで「テーブルの上の木製ボウルを動かして回転させて」と指示すると、そのボウルの3D軌跡を予測してくれる。しかも116万本の動画から作ったデータセット「MolmoMotion-1M」で学習している。ロボット制御や動画生成への応用を想定しているらしい。

私はロゴやブランディングが本業で、3Dモーションとは畑が違う。でも読み進めるうちに、なんとなく落ち着かない気持ちが湧いてきた。

AIが「未来を見る」ようになってきた



これまでのAIは、過去に起きたことを認識するのが得意だった。写真を見て「これは猫だ」と判断する、映像を見て「この人は右に動いた」と追跡する。そういう「振り返る」系の処理だ。

でもMolmoMotionは違う。まだ起きていない動きを言葉から読み取って、3D空間での軌跡として出力する。記事の表現を借りると「知覚は本質的に後ろ向きだ。未来を見る必要がある」という話で、そこに踏み込んできた。

正直、これを読んだときに「デザインでいうと何にあたるんだろう」とぼんやり考えた。クライアントのブランドがこれから先どう見られるか、色や形がどんな印象を与えるか、そういう「未来の文脈の読み方」は今でも私が担っている部分だ。でも、それも時間の問題かもしれない、という気がしてきた。

MidjourneyやFireflyとは「怖さの種類」が違う



MidjourneyやAdobe Fireflyは毎日使っている。ラフのイメージを出すとき、トンマナを確認するとき、提案の幅を広げるとき。これらのツールは、私の手足の延長として機能している感覚がある。うまく使えば、以前より1.5倍くらいの提案数をクライアントに出せるようになった。

ただ、MolmoMotionが示す方向性はちょっと違う怖さがある。Midjourneyは「絵を作る」ツールだ。最終的な判断は私がしている。でも「次にどう動くか」という予測ができるなら、いつか「このブランドのロゴはこう変化していくべきだ」という提案まで自動化されるかもしれない。

先日パートナーとご飯を食べながらこの話をした。「でもそれって、デザイナーって何が仕事なの?」って聞かれた。答えられなかった。しばらく沈黙して、「クライアントの気持ちを聞くことかな」と言ったら、「それもAIにできそうじゃない?」と返ってきた。笑いながら言ってくれたけど、迷った。

「消えていく部分」と「消えない部分」を仕分ける時期



MolmoMotionの記事には、限界についても正直に書かれていた。変形するオブジェクトの予測は難しい、カメラの動きが激しい場面は苦手、という記述がある。まだ「完璧ではない」という話だ。

でも、1年前のAIと今のAIを比べると、その「まだ」が想像より速く埋まってきている。PointMotionBenchという2700本のビデオクリップで構成されたベンチマークまで公開していて、改善サイクルを回す仕組みも整っている。

私が今やっておきたいのは、自分の仕事を「AIが予測できる部分」と「そうでない部分」に丁寧に仕分けることだ。


  • ビジュアルのラフ生成 → AIに任せていい

  • クライアントの言語化されていない要望を引き出す → まだ私の領域

  • 業種・文化・時代背景を読んでブランドの方向性を決める → ここが一番怖い



3番目が怖いのは、それが私の「腕の見せ所」だと思っていたからだ。でも「未来の動きを予測する」という方向にAIが進むなら、その領域まで侵食される日が来るかもしれない。

活版印刷が好きで、あの「ずれ」や「にじみ」に愛着を持っている自分がいる。それはデジタルでは出せないものだ。でもブランディングの文脈では、「ずれ」は許されない。精度と再現性を求められる。そこにAIが入ってくるのは、ある意味必然だと思っている。

全部任せたくはない。でも、何を手放して何を握り続けるかを、自分でちゃんと決めていないと、気づいたら「ただAIの操作をしている人」になっている気がする。それが一番ちょっと怖い。

自分のデザインのどこが「予測できない部分」なのか、改めて言葉にしてみようと思っている。

無料相談受付中

AI開発・DX推進についてお気軽にご相談ください。オンライン30分から。

無料相談を申し込む