AIが生命科学を語る日、デザインはどこへ行く

林 美里
林 美里 30代・ フリーランスデザイナー
OpenAIがGPT-Rosalindという新しいモデルを発表した。生命科学の研究に特化していて、ゲノム解析とか創薬化学とか、専門家が何年もかけて習得するような領域を扱えるらしい。デザインとは関係のない話のはずなのに、なぜか読んでいて落ち着かなかった。

たぶん、「専門性」という壁がまた一枚、溶けた気がしたから。

生命科学の研究者って、デザイナーと同じじゃないと思ってた。長年の訓練と直感と、言語化しにくいセンスの集合体みたいな仕事。でもGPT-Rosalindは、そういう領域にAIが踏み込んでいくということを、静かに示している。生化学的な推論、実験ワークフローの支援、そういうものが「できます」と言われると、自分の仕事のことを考えずにはいられない。

MidjourneyやFireflyと付き合ってきた5年間



フリーランスになって5年。最初の2年くらいは、AIデザインツールなんてまだ「遊び」の感覚で触っていた。Midjourneyがv4あたりになってきたとき、正直、ちょっと怖いと思った。クライアントが「これでいいじゃないですか」と言い出すかもという予感があった。

でも実際に仕事で使い始めると、違う景色が見えてきた。ロゴやブランディングの仕事では、AIが出すビジュアルはあくまで「素材」で、それをどう料理するかが自分の仕事だった。Adobe Fireflyをベクターの叩き台に使うとか、Midjourneyで雰囲気のムードボードを作るとか。ツールとして使うぶんには、むしろ提案のスピードが上がった。

ただ、迷いが完全に消えたわけじゃない。先月、飲食店のリブランディング案件で、クライアントに途中のAI生成ラフを見せてしまったことがある。「これ、AIが作ったんですか?」と聞かれた。その一言で、提案の重みが変わった気がした。同じビジュアルなのに、受け取られ方が違う。正直、そこでちょっと動揺した。

「専門性」というものが揺らいでいる感覚



GPT-Rosalindの話に戻る。生命科学の研究者がこれをどう受け取るのか、私には想像しきれない。でも、自分がAIデザインツールを初めて見たときの感覚に近いんじゃないかと思う。「これは使える」と「これに追われる」が同時に来る感じ。

パートナーに話したら、「医者や科学者もそうなるんだね」と言っていた。そうなんだよな、と思いながら、うまく言葉が出なかった。

デザインの仕事で私が怖いのは、AIに仕事を取られることより、「AIで十分だよね」という空気が広がることだ。価格交渉の場で、「ツール使えば安くできますよね」と言われたことが2回ある。そのたびに、自分が担当している「判断」の部分を、どう言語化するか悩む。なぜこの色か、なぜこのフォントか、なぜこのレイアウトか。その積み重ねがブランドになる、ということを、もっと丁寧に伝えないといけないのかもしれない。

活版印刷が趣味なのも、たぶんそこに理由がある。インクが紙に乗る瞬間の不均一さとか、ズレとか、そういうものに手が反応する感覚は、まだAIには再現できない。でも「できない」という確信は、毎年少しずつ揺らいでいる。

全部任せないために、何を手放すか



GPT-Rosalindがゲノム解析を支援するように、私も自分の作業の何割かをAIに任せている。でも「全部任せる」というラインは、まだ越えていない。越えたくない、というのが正直なところ。

ただ、「越えたくない」という感情だけでは戦えない時代になってきた気もしている。使わないと競合に負ける。使いすぎると自分が消える。そのあいだのどこかで、自分のバランスを探している。

生命科学の専門家も、きっと同じ問いを立てているんじゃないか。GPT-Rosalindの記事を読んで、そんなことを考えた。答えは出ていない。でも、問いが共通しているということに、少し安心したのも確かだ。

自分が担う「判断」の部分を、ちゃんと言葉にできるデザイナーでいたい。それだけは、今年のうちに整理しようと思っている。

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