モバイルバッテリーで思い出した、道具との距離感

林 美里
林 美里 30代・ フリーランスデザイナー
先日、The Verge でモバイルバッテリーのレビューを読んだ。Baseus の AM52 という 10,000mAh のやつで、Qi2.2 のワイヤレス充電とUSB-Cの有線充電を同時にできるらしい。普段こういうガジェット系の記事をそこまで熱心に読むほうじゃないんだけど、「ソフトタッチ素材を使っているのでiPhoneを傷つけない」という一文が妙に頭に残った。

道具が対象を傷つけないように設計されている、というのが、ちょっと刺さった。

デザインの仕事をしていると、使う道具のことをよく考える。昔は紙とペンとトレーシングペーパーだったのが、IllustratorになってFigmaになって、今は Midjourney や Adobe Firefly も当たり前に使うようになった。その変化が速すぎて、自分でも「自分が何を使って作っているのか」がたまにわからなくなる。

AIが出してくる「それっぽさ」の怖さ



Adobe Firefly は Photoshop の中に自然に組み込まれているから、気づいたら使っている。テクスチャの補完とか、背景の生成とか。便利なんだ、本当に。でも正直、たまにゾッとする瞬間がある。自分が意図していない「それっぽいデザイン」が出てきて、クライアントに見せると「いいね」ってなるとき。

それでいいのか?って迷う。

Midjourney もそうで、ムードボード作りには使いこなせてきたけど、「このビジュアルの責任は誰にある?」という問いがずっと頭の隅にある。独立して5年、ロゴもブランディングも「林がつくった」という文脈込みで選んでもらってきたつもりだった。AIが介在するとその文脈がぼやける。ただ、使わなければ競合に速度で負ける。これはもう、逃げられない現実だ。

傷つけない道具、という設計思想



バッテリーの話に戻ると、AM52 のソフトタッチ素材の話は、設計者がユーザーの不安を先回りしているということだと思う。「マグネットでくっつけたとき、iPhoneに跡がつくかも」という小さな不安を、素材の選択で消している。

自分がデザインするときも、同じことをやろうとしている。クライアントが言語化できていない「なんとなく嫌だ」を先に潰す。それが自分の仕事の核心だと思ってきた。

でも AIツールはそこが弱い。「それっぽくてきれいなもの」は出せても、「このクライアントがなぜこれを嫌がるか」は、まだ文脈として渡しきれない。プロンプトで補おうとするけど、毎回もどかしい。パートナーに愚痴ると「そんなに細かいこと気にしてるの、林だけじゃない?」って笑われた。たぶんそうなんだけど、そこを気にするのがデザイナーだと思っている。

道具に飲まれない、という意識



AM52 のレビューで面白かったのは、「冷却ファンもキックスタンドもディスプレイもないけど、値段を考えたら問題ない」という評価軸だった。機能が多いほどいいわけじゃない、という判断。

AIツールも似たところがある。

  • Midjourney:ビジュアルの方向性を素早く複数提示するのに使う
  • Adobe Firefly:細部の補完・修正に限定して使う
  • アイデア出しの初期:あえてAIを使わない


こうやって自分の中で用途を区切るようにしてから、「全部任せた感」が少し薄れた。道具に使われていない、という感覚を保つための意識的な制限だ。

モバイルバッテリーひとつで、こんなことを考えるのは回り道すぎるかもしれない。でも、道具が対象を傷つけないための設計、というのは、自分の仕事にも通じることだと思ったし、しばらく忘れないでいたい言葉になった。

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