AIが18件の難病を診断した話を、DX推進部長として読んだ

石井 雅之
石井 雅之 50代・ 大手製造業・部長
OpenAIのブログに、気になる記事が出ていました。研究者たちがOpenAIの推論モデルを使って希少疾患の診断を支援し、これまで解決できなかったケースから18件の新たな診断を導き出した、という内容です。医療の話ですから、私の仕事とは直接つながりません。ただ、この記事を読んでいて、ある種の感覚が湧いてきました。

「AI が専門家の領域に、本当に入り込んできている」という感覚です。

経営陣はこういう話を聞いている



医師が長年解けなかった難問を、AIの推論モデルが解いてしまった。これは医療だけの話ではありません。私が経営陣にDX投資の説明をする際、毎回ぶつかる問いがあります。「AI って、結局どこまで使えるのか」という問いです。

正直に言えば、この問いに対して、私はずっと歯切れの悪い答えしか返せていませんでした。「業務効率が上がります」「人手不足の補完になります」。そういった説明では、経営陣の表情はいつも変わりません。数字を示しても、「本当にそれだけのコストをかける価値があるのか」という空気は消えないのです。

ところが今回の医療のケースは、投資対効果の説明として使いやすい事例です。「解けなかった問題を解く」という成果が、数値で出ている。18件という数字は、命に直結する現場での話ですから、インパクトが違います。製造業の営業DXに引き寄せれば、「これまで営業担当が経験と勘に頼っていた顧客分析を、AIが補完する」という話に置き換えられます。

部下に使わせてみて、気づいたこと



我々の部門では昨年末から、25名の部下のうち希望者12名に生成AIツールの試験導入を始めました。提案書の下書き補助と、顧客情報の整理補助です。半年ほど経って出てきた感想は、「思ったより使える」と「どこまで入力していいかわからない」の二つに分かれました。

後者の「どこまで入力していいか」という不安は、社内のセキュリティ要件と直結しています。顧客情報をどの範囲でAIに渡せるのか、ガイドラインが追いついていないのです。この点は現在、情報システム部門と協議中ですが、進み方は緩やかです。大手の製造業はどこも似たような状況ではないでしょうか。

それでも、医療の現場で「解けなかった問題を解く」という実績が積み上がっているなら、私たちの営業現場でも「これまで属人的だった判断をAIで補完する」という方向性は正しいのだと、改めて確信しました。問題は技術の信頼性よりも、社内調整のスピードです。

セキュリティ要件の整理、稟議プロセスの合理化、現場の不安解消。この三つが揃わないと、ツールだけ入れても定着しません。私自身、過去にある分析ツールを導入した際に、現場への説明が後回しになって結局ほとんど使われなかった経験があります。あの失敗は、今でも教訓として残っています。

ベンダー選定で今、気にしていること



今期は新たなAIツールのベンダー提案を複数社から受ける予定があります。その評価軸として、私が最近強く意識しているのは「説明可能性」です。

希少疾患の診断支援でも、結果だけ出るのではなく「なぜそう判断したか」のプロセスが医師に見えることが信頼につながります。営業DXでも同じです。「なぜこの顧客を優先すべきか」の根拠をAIが示せるかどうか。部下が判断の根拠をつかめるかどうか。そこが選定の分かれ目だと感じています。

経営陣への説明でも、「AIが弾き出した数字」よりも「このロジックでこの数字が出た」という説明の方が、稟議を通しやすいのは間違いありません。ブラックボックスのままでは、上も下も納得しないのです。

OpenAIの事例は医療の話でしたが、「推論モデルが未解決の問題に切り込む」という可能性は、製造業の営業現場にも十分重なります。次のベンダー提案では、今日感じたことをそのまま評価軸に加えてみるつもりです。

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