生成AIの商品開発導入、稟議をどう通すか

石井 雅之
石井 雅之 50代・ 大手製造業・部長
先日、生成AIを活用した商品開発に関する記事を読みました。12社の事例が並んでいて、食品・化粧品・アパレルと業種は幅広い。読みながら、「うちの製造部門にも刺さる話だな」と感じました。

うちは営業DX推進が主戦場ですが、商品企画部門との接点も最近増えています。部下の一人が半年ほど前から、市場調査フェーズへの生成AI導入を試験的に動かしていて、その経過を横で見ていました。記事でいう「市場・ニーズ調査」と「アイデア創出」の工程に相当する部分です。手作業で数百件の口コミをまとめていた作業が、週単位から数時間に縮まったと報告を受けています。数字だけ見ると申し分ない。

経営陣への説明で詰まるのはいつも同じ場所



ただ、この手の話を経営陣に持っていくとき、投資対効果の根拠を問われる場面が必ずあります。「その効率化で、売上にどう繋がるんだ」という一言です。工数削減はわかる。でも商品開発サイクルの短縮が最終的な売上貢献にどう結びつくかを、稟議書の中で数字として示すのは正直しんどい。記事の事例12選を読んでいても、定性的な成果の記述が多く、定量的な投資回収の根拠になるデータは限られていました。これは記事を責めているわけではなく、業界全体の現状だと理解しています。

社内のセキュリティ要件も無視できません。生成AIに渡すデータの範囲を情報システム部門と合意する必要があり、特に未発表の商品コンセプトや顧客の購買データを学習・参照させる際には、利用規約とデータ保管場所の確認が必須です。うちでは現在、クラウド型の生成AIサービスを使う場合、情報システム部門の事前審査と法務レビューが義務付けられています。承認まで最短でも3週間はかかる。このリードタイムを最初から計画に織り込まないと、現場が先走って後から差し戻しになる、という事例を過去に経験しました。

部下に試させてわかったこと



記事を読んで改めて整理したのは、生成AIが商品開発の「どの工程」に効くかを最初に絞ることの大切さです。うちの部下が動かしている試験導入は、あえて調査とアイデア出しの2工程だけに限定しています。デザイン生成や試作への応用は次のフェーズとして切り離した。この切り方は正解だったと思っています。一度に全工程を変えようとすると、稟議の範囲が曖昧になり、承認後の評価指標も立てにくくなります。

部下からの報告によると、競合他社のレビュー分析を生成AIにかけると、顧客が不満を感じているポイントが構造的に整理されてくるそうです。これまでは担当者の読み込みと主観に依存していたところが、一定の客観性を持って出てくる。全部を鵜呑みにするわけではないですが、「見落としを減らす」という観点では評価できます。今月中に部門内の小さな報告会を開いて、この試験導入の中間結果を共有する予定です。

もう一点、記事の中でコカ・コーラやネスレといった海外大手の事例が触れられていました。グローバル企業の動きを経営陣への説明材料に使うのは、私のパターンとしてよく使う手です。「競合環境がこう変わっている」という外圧フレームを先に示してから、自社の取り組みを置く。稟議書の冒頭に外部環境の変化を1ページ入れるだけで、経営陣の受け取り方が変わる経験を何度もしてきました。

次に動くべきは定量指標の設計



現場の手応えはある。セキュリティの合意ラインも見えてきた。次に詰めなければいけないのは、投資対効果を説明するための指標設計です。商品開発リードタイムを何週間短縮するか、アイデア候補数をどれだけ増やすか、そのうち社内採択率がどう変わるか。この3点を仮説として置いて、試験導入の残り期間でデータを取る方針を部下と合意しました。稟議に乗せるのは秋の予算サイクルを目標にしています。経営陣が「数字で納得できる材料が揃ったか」と聞いてきたとき、その資料の中身をいま設計しているところです。

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