AIが商品デザインを作る時代、私の手は何をする

林 美里
林 美里 30代・ フリーランスデザイナー
生成AIを使った商品開発の事例記事を読んだ。食品や化粧品メーカーが、市場調査からアイデア出し、パッケージデザインまでをAIで回している話が12社分並んでいて、正直ちょっと気が遠くなった。

デザインが「工程のひとつ」として処理されている感覚。私が5年かけてやってきたことが、フローチャートの一箱に収まっている。

AdobeがFireflyを製品に組み込み始めてから、クライアントの口調が少し変わってきた。「AIで似たものできますよね?」とは直接言わないけど、見積もりを出したときの間が、なんとなく長くなった気がする。先月、化粧品ブランドのロゴ案件で、3回目の修正依頼が来たとき、ちょっと迷った。「このやり取り、Midjourneyで代替されるのかな」と頭をよぎった。迷うのがしんどかった。

使わないと遅れる、でも使いすぎると自分が消える



私もMidjourneyは使っている。ロゴの初期ラフを出すとき、クライアントに方向性を確認してもらう段階で、以前より格段に早くなった。3〜4パターンを並べて「どの雰囲気に近いですか?」と聞けるのはいい。ただ、出てきたビジュアルをそのまま見せると、クライアントの「デザイナーに頼む理由」が曖昧になる。

だから今は、Midjourneyで出した案をあくまで「思考メモ」として扱う。納品物にAIが触っていることを言わない、というより、言う必要がない段階で使う、という線引きにしている。これが正解なのかは分からない。ただ現時点ではこれが自分のバランスだ。

参考記事には「コンセプト設計やネーミングにも生成AIを使う」という事例があった。ネーミングまでAIか、とちょっと驚いた。コピーやブランドネームって、長い打ち合わせの中で出てくる「ふとした言葉」から生まれることが多い。私はブランディングの仕事をするとき、クライアントが何気なく使う動詞を拾っている。「届けたい」じゃなくて「渡したい」と言う人のブランドは、届け方より手触りを大切にしている、みたいな話。

AIはそこまで拾えない、たぶん。でも「たぶん」という不確かさが、ちょっと怖い。

活版印刷の時間が、今は頭の整理になっている



最近、週末に活版印刷のワークショップに通っている。金属の活字を一文字ずつ組んで、圧をかけて刷る。デジタルと真逆の作業だ。パートナーに「なんで今さら」と笑われたけど、手が動いているとき、頭が整理される感覚がある。

AIがデザインの量産を担うなら、私がやるべきは「なぜこの形か」の理由を持つことだ、と活版を刷りながら考えた。クライアントが求めるのは最終的には判断で、「このフォントはブランドの誠実さを表している」と言える人間の言葉だ。ツールが何であれ、そこに根拠を持てるかどうかが、フリーランスとして生き残る差になる気はしている。

参考記事の事例を読んで、正直うらやましいと思う部分もある。食品メーカーのように、大量のアイデアをAIで高速検証できる体制があれば、デザインの試行錯誤がもっと楽になる。私は一人でやっているから、全工程に時間がかかる。

でも一人だから、クライアントの「たぶん、こういう感じ」という曖昧な言葉に全力で付き合える。それがAIには置き換えにくい部分だと思いたい。思いたい、というのは、まだ確信ではないけれど。

しばらくは「使いどころを選ぶ」という方針で続けてみる。どこまでAIに任せて、どこから自分の手で触るか。その線引きを、案件ごとに少しずつ更新していくつもりだ。

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