14兆円のAI投資を見て、社内稟議を考えた

石井 雅之
石井 雅之 50代・ 大手製造業・部長
ソフトバンクグループがフランスで最大750億ユーロ、日本円にして約14兆円のAIデータセンター投資を発表したというニュースを読みました。2031年までに3.1GWの容量を整備し、ダンケルクなどに拠点を構えるという計画です。正直、スケールが大きすぎて最初は実感が湧きませんでした。

ただ、しばらく考えていると、これはとても他人事ではないと感じ始めました。私が今抱えている悩みは、数億円規模の営業DXツールの稟議をいかに経営陣に納得してもらうかです。14兆円と数億円では桁が7つも違いますが、「投資対効果をどう示すか」という本質は同じだと思っています。

経営陣が怖いのは「失敗の見え方」



うちの会社で稟議を通す際に一番難しいのは、技術の説明よりも「失敗したときのリスクをどう見せるか」という部分です。先日も部下の一人が提案してきた営業支援AIのベンダー提案書を読みながら、投資対効果の試算があまりにも楽観的すぎると感じました。従業員1500名規模の製造業では、現場への展開コストや教育コスト、セキュリティ審査のコストが必ず発生します。ベンダーの提案書にはそれがほとんど載っていないのです。

今回のソフトバンクの発表でも、マクロン大統領が「フランスをAIインフラの拠点にする」と評価したと報じられていました。国家レベルではトップの意思決定がそのまま動力になります。しかし民間企業の現場では、稟議書が3つの部門を経由して戻ってくるのが普通です。私の部署だけでも、情報システム部門・法務・経営企画との調整が必要で、特にセキュリティ要件の確認に時間がかかります。

「規模感」を経営陣への説明に使えないか



今回のニュースを読んで、一つ使えそうな切り口が見つかりました。「世界では今、これだけの資金がAIインフラに動いている」という事実を、稟議書の冒頭に置くことです。具体的には、SoftBankの750億ユーロという数字と、OpenAIとOracleが5年間で3000億ドル規模のデータセンター契約を結んでいるという関連情報です。これを「外部環境の変化」として示すことで、「今投資しないと取り残される」という危機感を経営陣に持ってもらいやすくなります。

実は以前、同じような手を使って成功した経験があります。4年ほど前にCRMの刷新を提案した際、当時の競合他社の導入事例を3社分並べて「業界標準になりつつある」と示したところ、承認が思いのほか早かったのです。あのときの学びは、「うちだけが損をするかもしれない」という感覚を経営陣に持たせることが一番効いた、ということでした。

今回のAIツール導入の稟議も、同じ構造で組み立てようと考えています。ただ、一点気をつけたいのはセキュリティです。AIデータセンターの話になると、どこにデータが置かれるのかという問いが必ず社内から出てきます。ベンダー選定の段階で、データのリージョンと社内セキュリティポリシーとの整合性をきちんと確認しておかないと、後で審査が通らなくなります。稟議書に「データは国内リージョンに限定、第三者監査済み」の一文を入れておくかどうかで、審査のスピードが体感で2週間は変わります。

部下の25名には、提案書を書く際に「リスクと対策をセットで書く」という習慣をつけてもらうよう今期から指示しています。ベンダーが出してきた提案の甘い部分を指摘できるようにすること、それが結局、稟議を通す一番の近道になります。

14兆円というスケールのニュースから始まって、数億円の稟議書の話に着地しましたが、この解像度の差こそが私の仕事だと感じています。次回の経営会議の前に、もう一度外部環境の数字をアップデートしておくつもりです。

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