AIに仕事を取られる前に、自分を守る話

林 美里
林 美里 30代・ フリーランスデザイナー
OpenAIがパートナーネットワークに1億5000万ドルを投じるというニュースを読んだ。企業向けのAI導入を加速させる、という内容だ。正直、最初は「大企業の話ね」と流しかけた。でも読み進めるうちに、じわじわと落ち着かない気持ちになってきた。

こういう大きなお金が動くとき、必ず波紋がある。エンタープライズ向けのAI活用が加速すれば、それはいずれフリーランスのデザイン市場にも届く。クライアントが「AIでできる」と思い始めたら、自分の単価はどこへいくんだろう。そう考えると、頭の中がちょっとうるさくなる。

使いながら、ずっと怖いと思ってきた



独立して5年、MidjourneyもAdobe Fireflyも試してきた。正直、便利だと思う瞬間は確かにある。ラフを起こすスピードが上がるし、クライアントに方向性を見せるときのビジュアルの説得力も変わった。「これ、AIで出したたたき台です」と言うと、反応も早くなる。

ただ、使えば使うほど「自分はどこにいるんだろう」という感覚が忘れられない。ロゴひとつ取っても、フォントの選び方、余白の感覚、色の濃度。そこには自分が活版印刷を好きなこととか、美術館で好きな印刷物を手に取った記憶とか、そういうものが混ざっている。AIが出す画像はきれいだけど、そこには何も積み上がっていない。

パートナーと「最近どう?」という話をしていて、「AIって結局、道具でしょ」と言われた。そうなんだけど、でも道具によって職人が消えていった歴史はあるよね、とつい返してしまった。活版印刷だってそうだ。効率が悪くて時間もかかる。でも今も好きな人がいるのは、機械では出せない何かがあるからだと思う。デザインもそうでありたい、とは思う。ただ、思うだけで食えるわけじゃない。

1億5000万ドルという数字が示すもの



話をOpenAIのニュースに戻す。1億5000万ドルというのは、AIをただ実験する段階が終わったというサインだ。本格的に企業の現場に埋め込んでいく段階に来た、ということだと思う。これがデザイン領域に及ぶのは時間の問題だろう。

すでにAdobe FireflyはCreative Cloudに統合されて、普通のデザイナーのツールになっている。MidjourneyのAPIを使ったサービスも増えた。クライアントサイドにAIツールが普及したとき、ロゴや簡単なビジュアルは「自分でやります」となる可能性がある。中小企業でも、キャンバとAIがあればかなりのことができてしまう。

  • ラフや案出しのスピードは上がった (便利)
  • クライアントが「自分でできる」と思い始めている (怖い)
  • 大手がAI導入を加速させると、市場の前提が変わる (迷う)


こう並べると、楽観的にはなれない。でも悲観しても何も変わらない。

自分が消えないための話



ここ最近、自分の仕事の説明の仕方を少し変えた。「ロゴを作ります」じゃなくて、「ブランドを整理します」という言い方にしている。AIが出せるのはビジュアルのパターンだ。でもそのブランドが何者で、誰に何を伝えたいのかを聞き出して、言語化して、視覚に落とすプロセスは、まだ人間のほうが丁寧にできると思っている。

クライアントとの価格交渉でも、最近は「時間」より「プロセス」を売ろうとしている。ヒアリングに時間をかけること、提案書で考え方を見せること、修正のたびに理由を説明すること。それをちゃんとやっていれば、「AIで安く済ませよう」という選択とは違う話になる、はずだ。今のところ、それがうまくいっているクライアントとそうでないクライアントが半々くらいだけど。

1億5000万ドルのニュースは、自分の仕事の前提がどんどん更新されていくことの確認だった。正直、迷うし、ちょっと怖い。でも自分が5年かけて積み上げてきた判断の感覚は、まだ手放さなくていいと思っている。次の仕事の提案書、少し丁寧に書いてみるつもりだ。

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