AIにプロンプトを鍛えられて、自分の輪郭がぼやける

林 美里
林 美里 30代・ フリーランスデザイナー
Wiredに「ChatGPTのプロンプトを28のコツで上達させる」という記事が載っていた。正直、読みながらずっと複雑な気持ちだった。

たとえば記事の中に「80-20ルール」を使ったプロンプトの話がある。パレートの法則を応用して、あるトピックの重要な20%を押さえるだけで全体の80%を理解できる、というやつ。知識の習得ツールとしてはたしかに便利だ。でも私がAIに触れるとき、そこで起きていることはもっとぐるぐるとした、もっと厄介な話だと思っている。

プロンプトを磨くほど、自分の言葉が薄まる気がする



記事では「AIに10歳の子どものふりをさせてフィードバックをもらう」というコツも紹介されていた。シンプルなんだけど、そのアイデアを読んで一瞬うらやましくなった。コピーライターやコンサルの人たちは、AIを「壁打ち相手」として使えばいい。でもデザイナーとしての私には、もう少し問題が複雑で。

私がMidjourneyやAdobe Fireflyに出すプロンプトは、「壁打ち」じゃなくてほぼ「制作指示」に近い。だからプロンプトを磨けば磨くほど、AIが良い絵を出してくれる。でも、その「良い絵」はいったい誰のデザインなんだろう。

去年、飲食店のブランディングを一式任されたとき、ロゴの初期案をAIで出してみた。クライアントへの提案用のたたき台を素早く作りたかっただけなのに、先方が「これ、すごくいいですね、このまま使えますか」と言い出した。結局、配色と書体と余白を全部手で作り直した。でもその過程で「私はどこにいたんだろう」とぼんやり考えてしまった。

「全部任せる」と、クライアントに私の代わりを求められる



パートナーに話したら、「でも結局あなたが選んで整えたんじゃないの」と言われた。それはそうなんだけど、なんか違う、とその場では言えなかった。

ただ、最近ちょっとわかってきたことがある。AIへの反応が「速い」クライアントと「鈍い」クライアントがいて、速いクライアントほど「AIで作ったなら安くなりますよね?」という話に持っていきやすい。私が独立して5年、フリーランスとして価格交渉に苦労してきた部分が、AI普及でさらに難しくなった感覚がある。

Wiredの記事の中に「有名人の視点でAIに答えさせる」というコツもあった。スティーブ・ジョブズだったらどうする? という問いかけを使うやつ。記事自体は、AIがジョブズの「真の思考」を知っているわけではないと注意書きしていた。でもそこに、少し本質がある気がした。AIは「それらしいもの」を出力するのが得意だ。私がAIに乗っかりすぎると、私のデザインも「それらしいもの」になっていく。

ちょっと怖いのは、クライアントがその「それらしさ」を気に入ってしまうことだ。活版印刷の授業に通い始めたのは去年の秋で、ちょうどその頃から意識的に「手でしか作れないもの」に触れるようにしている。


  • 物理的な版に触れる感覚

  • インクの重なりや刷りムラ

  • 機械的に再現できないズレ



こういうものへの関心が、AIが生成するものへの対抗心から来ているとしたら、かなり情緒的な動機だとは思う。でも、迷いながらでもそこに向かっているのは本当だ。

プロンプトを鍛えることは、たぶんこれからも続ける。ただ、どこまで磨くか、どこで止めるかは、もう少し自分の中でルールを作りたい。AIに任せた領域と、自分の手を動かした領域を、クライアントにちゃんと言葉で伝えられるようになることが、次の課題だと感じている。

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