Geminiが「創る」時代に、私は何者になるのか

林 美里
林 美里 30代・ フリーランスデザイナー
Google I/O 2026 の発表を眺めていて、正直ちょっと怖くなった。

Gemini 3.5 と Gemini Omni が「高度な推論と創造」に対応したという話。創造、という言葉がひっかかった。デザインのコンサルをしてくれる AI じゃなくて、もう「創る」側に踏み込んできている。

私はフリーランスになって5年、ずっとロゴやブランディングの仕事をしてきた。Midjourney が出てきたとき、正直焦った。Adobe Firefly が Illustrator に統合されたとき、もっと焦った。でも「使いこなせばいい」と自分に言い聞かせて、どうにかツールとして飼い慣らしてきた。

道具として使っているつもりが、気づいたら依存している



クライアントのロゴ制作を例にとる。最初のムードボード作りに Midjourney を使うようになって、作業時間が半分以下になった。それ自体はよかった。でも最近、ふと気づいたことがある。ラフを出す前に「まず Midjourney で何パターか出してみよう」という思考になっていた。自分の頭で最初のイメージを膨らませる時間が、いつの間にか減っていた。

活版印刷が趣味なのは、あの手触りと、狙い通りにいかないズレが好きだから。デジタルにはない「抵抗感」がある。ところが仕事のデジタルデザインでは、その抵抗感をどんどん AI に肩代わりさせていっている。ちょっと矛盾しているな、とパートナーに話したら「それって怖くない?」と聞かれた。怖い、と素直に答えた。

Gemini Omni の「創造」が意味するもの



今回の Google の発表を読んで一番引っかかったのは、Gemini Omni が推論だけでなく「creation」を担うという文脈だった。Agentic という言葉も繰り返し出てきた。自律的に動くエージェントが、タスクを代行する時代。ショッピングの Universal Cart、健康管理の Google Health アプリ、そして Googlebook という新しいハードウェア。生活のあらゆるレイヤーで AI が動き始めている。

デザインの世界でも、それは同じだ。クライアントが「ロゴのラフ案をAIに出させたら、もうこれでいいかも」と言い出す未来は、そんなに遠くない気がする。実際、知り合いのデザイナーは去年、中小企業のロゴ案件を Adobe Firefly で作ったものを「これで十分」と言われてボツにされた、と話していた。単価30万円の案件だったらしい。

全部任せると「私」が消える、という感覚



使わないと競合に負ける。でも全部任せると、自分が何をしている人なのかわからなくなる。

このジレンマ、デザイナーの友人と話すといつも同じ場所に戻ってくる。ただ最近、少しだけ整理できてきた気がしている。

私が売っているのは「ロゴのデータ」ではないはずだ。クライアントのブランドの文脈を読んで、言語化して、視覚に落とす、あの判断のプロセスを買ってもらっている。AI はそのプロセスを加速するツールにはなれるけれど、クライアントとの関係性の中で積み上がる信頼とか、「林さんにしか頼めない」という感覚は、まだ代替できないと信じたい。信じたい、というのが正直なところで、確信はない。迷う。

それでも、今のうちにやっておこうと思っていることがある。AI を使いながらも「どこで自分の判断を入れたか」を言語化する癖をつけること。ブリーフィングからコンセプト提案の過程を、もっと丁寧にクライアントに見せること。作ったものではなく、考えたことを届ける。

Gemini がどれだけ「創造」に踏み込んできても、その問いだけは自分で持ち続けていたい。

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