音楽業界のAI騒動を読んで、製造業の自分ごととして考えた

石井 雅之
石井 雅之 50代・ 大手製造業・部長
先週末、ゴルフの帰りにスマホでThe Vergeの記事を読みました。グラミー賞を主催するRecording Academyのトップ、Harvey Mason Jr.のインタビューです。音楽業界でAIが「omnipresent(遍在している)」になったという話で、ストリーミングサービスのDeezerには1日5万曲以上のAI生成楽曲がアップロードされているそうです。

正直なところ、最初は「音楽の話か」と流しかけました。でも読み進めると、手が止まりました。製造業の営業DXと、構造がほぼ同じだと気づいたからです。

「業界全体に広がっているのに、評価基準がついていかない」問題



Harveyは、自分がプロデューサーとして入るセッションには今や毎回AIが使われていると言っています。Janet JacksonやBeyoncéを手がけた伝説的なプロデューサーがそう言うのですから、現場レベルでは完全に定着しているわけです。にもかかわらず、グラミー賞の規定はAI楽曲を受賞対象外としている。現場の実態と、公式な評価・ルールのあいだに大きなギャップが生まれています。

これ、うちの社内でも起きていることと重なります。部下の25名のうち、AIツールを何らかの形で使っているのは肌感覚で半数以上います。提案書の下書き、競合情報の整理、顧客対応メールの文面確認。ただし、会社として正式に承認したツールは現時点でまだ限られています。社内のセキュリティ要件の審査が追いつかず、グレーゾーンで使われているものが相当数ある。現場の実態と制度のズレ、そのままです。

経営陣への説明をどう組み立てるか



私がいま取り組んでいるのは、次の四半期にツール導入の稟議を通すことです。部下の一人、入社8年目の田村が試験的に使っていたAIアシスタントが、提案書作成の時間をかなり短縮しています。定量的な数字としてはまだ集計中ですが、田村本人は「以前なら半日かかっていた構成案が1〜2時間で出せる」と言っています。

経営陣に出す資料には、こういう現場の声だけでは弱い。投資対効果をどう示すか、リスクの担保をどうするか、そこが問われます。音楽業界の話で言えば、グラミー側も「AIを全面禁止する」でも「全部OK」でもなく、線引きをどこに引くかで相当議論しているはずです。うちの稟議も、同じ構造です。

整理すると、経営陣が気にするのはだいたいこの3点です。

  • 情報漏洩リスクとセキュリティ要件をどう担保するか
  • 導入コストに見合う生産性向上の根拠はあるか
  • ベンダーのサポート・契約条件は信頼できるか


この3点を整理して出せば、少なくとも審議テーブルには乗ります。ベンダー選定の段階では情報セキュリティ部門を早めに巻き込む、これは前回の失敗から学んだことです。3年前、セキュリティ審査を後回しにしたまま稟議を上げて、差し戻しになったことがあります。あの経験は今も教訓として残っています。

現場の「使っている感覚」を制度に乗せる作業



Harveyのインタビューで印象に残ったのは、「AIを使っているアーティストを排除するのではなく、どう共存させるかを考えている」というニュアンスの発言です。グラミーは今後の対応を模索中で、答えはまだ出ていない。それが正直なところだと思います。

うちも同じで、「AIを使うな」と言う気はありません。むしろ使わせたい。ただし会社として責任を持てる形で、です。部下が個人のリスク判断でグレーゾーンのツールを使い続ける状況は、組織として健全ではない。稟議を通すのは目的ではなく、現場の実態を制度に乗せて、みんなが安心して使える環境を作るための手段です。

音楽業界の話を読みながら、製造業の営業現場でやるべきことが少し整理されました。今月中に田村のデータをもう少し集めて、来月の経営会議に向けた資料を固めるつもりです。

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