COBOLの話を読んで、うちの電子カルテのことを考えた

吉田 誠一
吉田 誠一 40代・ クリニック院長
富士通と日本IBMが、COBOLで書かれた古いシステムをJavaに変換する協業を強化すると発表しました。富士通はメインフレームの販売を2030年度、保守を2035年度に終了するロードマップを公表済みです。IT業界のニュースですが、医療に関わる立場から読んで、他人事ではないと感じました。

うちのクリニックで使っている電子カルテは、SS-MIX対応のシステムです。導入してから8年が経ちます。毎日80人近い患者さんの記録を入力し、レセプトを処理し、予約管理と問診の確認を繰り返す。スタッフ12名で回しているとはいえ、事務処理の量は相当なものです。妻も看護師長として入力補助の指示出しをしながら、診療の合間に「このシステム、もう少し入力が楽になればいいのに」とよく言っています。

「古いシステムを使い続けること」のリスク



今回の参考記事で気になったのは、「レガシー技術に精通した技術者の高齢化や人材不足」という一文です。医療システムもまったく同じ状況にあります。電子カルテのベンダー担当者と話すと、カスタマイズを担当してきたエンジニアが定年退職してしまい、細かい修正に時間がかかるようになった、という話を聞きます。

システムが古くなれば、その分だけ対応できる人材が減る。そして、何か問題が起きたときの修正が遅れる。医療の現場では、これが直接患者さんへの影響につながる可能性があります。アレルギー歴の参照が遅延する、薬の投与歴が正しく表示されないといった事態は、エビデンスとは別次元の、純粋なシステムリスクです。

今年の春、実際にひやりとした場面がありました。定期処方の患者さんのデータを呼び出したとき、前回の処方履歴が一瞬表示されなかったのです。数秒後には正常に表示されましたが、あの瞬間は焦りました。サーバーの応答速度の問題だったとベンダーから説明を受けましたが、原因究明に2週間かかりました。古いシステムのサポート体制の限界を感じた出来事です。

AIエージェントが自動化する、ということへの私の見方



IBMのAIエージェント型開発支援ツール「IBM Bob」がソースコードの変換作業を自動化するという話は興味深いです。開発の現場での自動化は、生産性向上という観点から理解できます。ただ医療AIになると、私はもう少し慎重に考えます。

医学論文では、AIを使った画像診断の精度が一定の疾患領域で専門医と同等以上というデータが出ています。それは事実として受け止めます。一方で、誤った診断が出たとき、その責任が誰に帰属するかという問いに、まだ明確な答えがありません。「AIが出した結果を医師が確認した」という構造であれば、最終的な責任は医師にある。それは今の法律的な解釈でも同じです。

となると、AIの提案を医師がきちんと評価できる仕組みになっているかどうか、が実は核心になります。「AIが言ったから」という依存が生まれないような設計かどうか。この視点で医療AIのシステムを見ると、単なる精度指標よりも大事なことがあると感じています。


  • 診断支援AIの提案に対して医師が上書き・却下できるフローが明示されているか

  • AIが判断の根拠をどの程度開示してくれるか

  • 誤作動・異常出力のときにアラートが出る設計か



COBOLからJavaへの変換という話から、ずいぶん遠くへ来てしまいましたが、根っこは同じです。古いシステムを放置するリスクと、新しい技術を無批判に受け入れるリスク。どちらも患者さんの安全に関わります。

次の更新タイミングで何を確認するか



今年度末にベンダーとの保守契約の更新があります。そのタイミングで、現行システムのサポート終了スケジュールをきちんと確認しようと決めました。富士通のロードマップのように、医療システムのベンダーも5〜10年後の見通しを持っているはずです。それを聞かずに契約を更新し続けるのは、少し無責任だったかもしれません。

妻には「来月の面談前に整理しておく」と伝えました。電子カルテの話をすると、彼女はいつも「使いやすさよりも止まらないことが一番」と言います。その感覚は、現場で毎日使っているスタッフとして、おそらく正しい優先順位です。

システムが止まらないこと、誤った情報を出さないこと。それがあって初めて、AIによる自動化や効率化の話ができる。そういう順序があると、この記事を読んで改めて確認しました。

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