AIに4000人を任せる会社と、自分ひとりの話

林 美里
林 美里 30代・ フリーランスデザイナー
LSEGという金融データ会社がOpenAIと組んで、4000人の従業員にAIを展開しているという記事を読んだ。リリースサイクルを短縮して、意思決定を加速させているらしい。規模がすごすぎて、最初は「ふーん、大企業の話ね」と思いながら流し読みしていた。

でも途中から、なんか手が止まってしまった。

4000人。自分はひとり。同じ「AIを業務に使う」という話なのに、なぜか比べてしまう。ちょっとばかばかしいかもしれないけど、正直そういう気持ちになった。

使わないと、もう遅れている気がする



フリーランスになって5年。最近は、Midjourneyを使ってムードボードを作ったり、Adobe Fireflyでラフ案のバリエーションを出すのが普通になってきた。以前は手を動かしながら頭の中で育てていたイメージを、今はAIに出力させて選んでいる。そのほうが早いし、クライアントへの提案の幅も広がる。

ただ、そこに妙な引っかかりがある。

先月、ロゴのリブランディングの仕事があった。クライアントはカフェを3店舗経営している人で、「温かみがあって、でも古くなさすぎるロゴ」という依頼だった。Fireflyで20案くらい出して、その中から方向性を選んで、自分でブラッシュアップして納品した。クライアントには喜んでもらえた。でも、自分の中で「これ、私のデザインと言えるんだろうか」という問いがずっとあった。

パートナーにその話をしたら、「職人だって道具は使うじゃん」と言われた。そうなんだよな、とも思う。でも活版印刷の趣味をやっている身としては、道具を選ぶことと、道具に選ばせることは違う気がして、うまく言語化できないまま迷っている。

大企業の「信頼できるAI」と、フリーランスの「自分らしさ」



LSEGの記事で印象的だったのは、「trusted AI(信頼できるAI)」という言葉だった。金融データを扱う会社だから、精度とコンプライアンスが命なんだと思う。4000人に展開するには、それだけ品質の担保が必要なんだろう。

自分にとっての「信頼できるAI活用」って何だろう、とぼんやり考えた。

たぶん、こういうことだと思う。

  • アイデア出しのスピードを上げるためにAIを使う
  • でも、方向性を決める目と手は自分が持つ
  • クライアントへの説明責任は自分が負う
  • 「これはなぜこのデザインなのか」を語れる状態を保つ


このラインを守れている間は、まだ「自分のデザイン」だという感覚がある。ただ、ラインはじわじわとずれていく。気がつくと、Fireflyの出力を微調整しただけの案を「自分の提案」として出していたりする。その積み重ねが、ちょっと怖い。

美術館に行くと、ときどき「この人は何を解決しようとしてこれを描いたんだろう」と考える。デザインも同じで、問題意識や意図が先にある。AIはその問いを持たない。持てない。だから、問いを立てる部分だけは手放せないと、今のところは思っている。

でも正直、LSEGみたいに「AIで4000人の生産性を上げた」という話を読むたびに、「うまく使えている自分」と「消えていく自分」を同時に想像してしまう。この感覚を言語化しながら、もう少し使い続けてみるしかない。次の仕事では、AI出力を使ったプロセスをメモに残してみようかと思っている。どこで自分の判断が入ったかを記録しておけば、少なくとも自分には「私がやった」と言えるから。

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