Copilotを35年間売り続けた男が去る話

鈴木 蓮
鈴木 蓮 20代・ ソフトウェアエンジニア
Yusuf Mehdi が Microsoft を退職するというニュースを X で見た。35年勤務、Windows 3.1 から Copilot Plus PC まで関わったという話で、さすがにスクロールが止まった。

インターン入社が '90年代で、Windows 95 のマーケティングをやって、Bing を立ち上げて、Xbox One にも絡んで、最後は AI 時代の Copilot を売る立場に。一人の人間がこれだけのプロダクトサイクルを横断できるの、普通に考えてえぐい。エンジニアじゃなくてマーケターの話なのに、なぜか自分のキャリアと照らし合わせて読んでしまった。

ベテランが抜けるタイミングとプロダクトの関係



GeekWire の報道によると、Mehdi は Satya Nadella と CMO の Takeshi Numoto と一緒に transition plan を進めているらしい。後任は未定。Rajesh Jha も 35年以上勤めて今年 3月に退職を発表してるし、Xbox chief の Phil Spencer も離れるというニュースもあった。ベテランが一気に抜けてる時期なのは間違いない。

これを読んで最初に頭に浮かんだのは「Copilot の方向性って今後どうなるんだろう」という疑問だ。Mehdi は consumer 向け Copilot のマーケティングを 2027 年まで続けると言っているから、完全に手が離れるのはまだ先の話ではある。ただ、プロダクトの顔だった人が去るタイミングは、だいたい設計思想の転換点になることが多い。

スタートアップで自分も似たような経験をした。前の会社で技術判断のほぼ全部を握っていたシニアエンジニアが突然辞めたとき、チームはしばらく設計方針が定まらなかった。コードレビューの基準も、ライブラリ選定の軸も、その人の頭の中にあったからだ。ドキュメントには残っていなかった。あのときのことを思い出すと、今の Microsoft のチームは似たような状態になってる可能性がある。

Copilot の API を使う側として気にすること



個人開発で Azure OpenAI や Microsoft Graph API を使っているので、Copilot 周辺の仕様変更は普通に自分ごとだ。先月も Microsoft 365 Copilot 向けの Graph connector の spec が微妙に変わって、認証フローを書き直す羽目になった。

# 変更前: client_credentials フローで動いていたもの
curl -X POST https://login.microsoftonline.com/{tenant_id}/oauth2/v2.0/token \
  -d 'grant_type=client_credentials' \
  -d 'scope=https://graph.microsoft.com/.default' \
  -d 'client_id={client_id}' \
  -d 'client_secret={client_secret}'

これ自体は標準的な MSAL フローなんだけど、connector の registration 側の権限モデルが変わって、ハマった。結局 2 時間溶かした。こういう「静かな breaking change」が一番つらい。

Mehdi が 2027 年まで残るとしても、その後の consumer 向け Copilot の方向性は変わり得る。API の deprecation policy や、consumer tier と enterprise tier の機能差分にも影響が出るかもしれない。今のうちに依存している部分を整理しておくのは悪くない。

具体的に自分がやろうと思っているのは:

  • Microsoft Graph API の依存箇所を一覧化して、deprecation notice の RSS を設定する
  • Azure OpenAI の endpoint を抽象化して provider を差し替えやすくしておく
  • consumer Copilot API の利用部分に feature flag を入れて切り替えを楽にする


これ、ベンダーロックインの話というより、組織変更による方向転換を見越した普通のリスクヘッジだ。

35年という数字を自分に変換すると



Mehdi が入社したのは '90年代初頭のインターン時代。自分が 28 歳で、彼が 35 年後の姿だとすれば、今の自分は彼のキャリアのかなり序盤にいる計算になる。Windows 95 のリリースは 1995 年だから、彼が 20 代だったとき Microsoft はあのプロダクトを世に出していた。

彼女とこの話をしたら「35 年同じ会社って想像できないね」と言っていた。確かに。ただ、彼が関わったプロダクトの breadth を見ると、一つの会社に居ながらまったく別の仕事を何度もやり直した感じがある。Windows から検索から gaming から AI まで。それは「同じ会社に 35 年」というより「35 年かけて 5 個の会社分の仕事をした」に近い。

自分がこれから何年エンジニアをやるかは分からない。ただ、コードを書く仕事をしている限り、LLM まわりのプロダクトの変化とはずっと付き合い続けることになる。Mehdi のような人が去るタイミングで何が変わるかを観察しておくのは、純粋に技術的なアンテナとして価値がある。

とりあえず次の Microsoft Build の発表を、今年は去年より真剣に追いかけるつもりだ。

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