セールで買えないもののことを考えてた

林 美里
林 美里 30代・ フリーランスデザイナー
Memorial Dayのセール記事をぼんやり読んでいた。AirPods Pro 3が20%オフで200ドル、LGのOLEDテレビが48インチで650ドル。どれも「おお、安い」と思うけど、自分には関係ないな、という感じで画面をスクロールしていた。

でも途中で手が止まった。Nothingのヘッドフォンが169ドルになっているのを見て、ああ、これ仕事中に使うやつだ、と。ノイズキャンセリング。音楽を流しながら作業する時間は、自分にとってかなり大事な時間だ。

道具を買うことと、道具に食われることの違い



デザインの仕事をしていると、道具の更新が止まらない。サブスクだけでも毎月それなりの金額が出ていく。Adobe、Figma、最近はMidjourneyも。で、ふと「これだけ払って、自分は何を作っているんだろう」と思う瞬間がある。

正直、Midjourneyは使う。使わないと競合に負けるというのは実感としてある。クライアントの初回プレゼンで「雰囲気画像」を10枚並べられるのは、今の仕事のスピードでは必要だ。でも、それをそのまま納品することは絶対にしない。それは自分のフィルターを一枚も通していないから。

Adobe Fireflyも同じで、便利だと思う場面と、ちょっと怖いと感じる場面が混在している。背景を生成で埋めるのは楽だ。でも「楽」と「自分が作った」の間にある距離が、じわじわ広がっていく気がして。

手を動かす時間が減ると、何かが薄くなる



先週、活版印刷のワークショップに行った。活字を一文字ずつ並べて、インクを塗って、紙に押す。一枚刷るのに30分近くかかる。それは明らかに非効率だ。でも帰り道に、なんかすごく満たされていた。

パートナーに「何がよかったの?」と聞かれて、うまく答えられなかった。「手が疲れたのがよかった」みたいな変な答えになってしまった。でも本当にそういう感覚だった。抵抗があるから、作れた、という感じ。

デジタルのデザインツールは抵抗がない。修正が無限にできる。やり直しがきく。それはいいことなんだけど、決断する必要がないぶん、何かが残らない感じもある。AIがさらにそれを加速させると、もっと薄くなるのかもしれない。迷う。

Midjourneyを使って1時間でムードボードを作れるようになった。以前は半日かかっていた作業だ。浮いた時間で何をしているかというと、クライアントとの対話に使っている。「なぜこのトーンなのか」「このブランドはどんな空気を持ちたいのか」という会話。それは今のところ、AIにはできない。

だからといって、全部うまくいっているわけではない。ただ、自分の仕事の中で「AIに任せていい部分」と「自分が手を動かす部分」の境界線は、意識的に引き続けるしかないと感じている。セールで買えるものはたくさんある。でも境界線は、値引きもされないし、代わりに誰かが引いてもくれない。

  • Midjourneyで雰囲気を出す → 自分で解釈し直す
  • Adobe Fireflyで下地を作る → 必ず手を加える
  • ツールを使う → でも最後の判断は自分がする


書き出してみると単純に見えるけど、実践するのは毎回迷う。次の案件でもきっと迷う。それでいいのかもしれない。迷いがある間は、まだ自分が消えていないということだから。

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