道具を使いこなすか、道具に使われるか

林 美里
林 美里 30代・ フリーランスデザイナー
アウトドア好きのパートナーが「REIのアニバーサリーセールが来てるよ」と画面を見せてきた。Garmin Fenix 8が25%オフで750ドル、テントにランタン、寝袋と、アウトドアギアがずらっと並んでいる。

それを眺めながら、ぼんやり思った。このGarminだって、GPSナビからヘルスモニタリング、通話まで全部できる多機能ウォッチだ。でも使いこなせなきゃただの重い腕時計になる。道具はそれだけ賢くても、使う人間の目的が曖昧だと機能しない。

これって、自分がMidjourneyやAdobe Fireflyと向き合うときとまったく同じだ、と気づいた。

全部任せると「自分の手」が消える感覚



独立して5年、ロゴやブランディングの仕事では手を動かすことに意味があると信じてきた。スケッチして、修正して、クライアントと対話しながら形にしていく。そのプロセスごと届けているつもりだった。

AIツールが本格的に使われるようになって、正直、迷いが増えた。Midjourneyに細かいプロンプトを打ち込むと、それだけでクオリティの高いビジュアルが秒で出てくる。Adobe Fireflyも商用利用を前提に設計されているから、実務に組み込みやすい。便利なのはわかる。でも、何かが引っかかる。

たとえば先月、小さなカフェのロゴを担当した。オーナーは「手仕事感のあるロゴがほしい」と言っていた。試しにMidjourneyで方向性のイメージを複数出してみた。クライアントは喜んだ。でも、そのまま仕上げに使おうとしたとき、ちょっと怖くなった。

これって私の仕事なのか。私はただプロンプトを書いた人なのか。

道具の「賢さ」と自分の「立ち位置」



Garmin Fenix 8みたいな高機能ウォッチは、使う人間が自分の目的をわかっていないと宝の持ち腐れだ。トレイルランのペース管理に使いたいのか、普段の睡眠管理に使いたいのか。目的が明確な人の手に渡って初めて機能する。

AIデザインツールも、たぶん同じ構造だと思っている。ただ、怖いのは、道具が賢すぎて「自分の目的が曖昧でも、それっぽい答えを出してくれること」だ。


  • Midjourneyでビジュアルの方向性を探る段階には使える

  • Adobe Fireflyで素材を補う作業には便利

  • でも、コンセプトの核心はまだ自分で考えたい



この線引き、今のところ自分の中でこうなっている。でも正直、この線引き自体が揺らぐことがある。

今春、フリーランス仲間と話したとき、「AIで出したラフをそのまま提案してる」と言っていた。クライアントも満足してるし、単価は下げてないと。それを聞いたとき、自分はどう反応すべきかわからなかった。否定できるほど確固たる信念があるわけでもなく、かといって「それでいい」とも思えなかった。

使わないと負けるけど、全部任せると自分が消える



活版印刷が好きで、休みの日に工房に行くことがある。一文字ずつ活字を並べて、インクをのせて、手で刷る。デジタルで同じ文字を打つより何十倍も時間がかかる。でも、その「時間のかかり方」に意味があると感じている。

デザインの仕事でも、どこかに「時間のかかり方」を残したい。AIに全部任せると、その部分が抜け落ちる気がしてならない。

だから今は、AIツールを「補助」として使いながら、自分の思考の痕跡が残る部分を意識して残すようにしている。プロンプトを書く前に必ず手書きのスケッチをする、というルールを自分に課した。

Garminを使いこなすには、まず自分がどう動きたいかを知らないといけない。AIツールも同じで、自分がどんなデザイナーでいたいかを先に決めないと、道具に飲み込まれる。

その「自分がどんなデザイナーでいたいか」を、まだ言語化できていない。そこが、今の自分の本当の課題だ。

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