ウォール・ストリート・ジャーナルが報じたOpenAIとAnthropicの関係について、社内のAI推進担当者から「部長、これ読みましたか」とSlackが飛んできました。読んでみると、なかなか示唆に富む内容でした。
アモデイCEOは2016年にOpenAIに入社し、GPT-2やGPT-3の開発を率いた後、2020年末に約10人を連れて独立してAnthropicを設立しています。離脱の直接的なきっかけは、グレッグ・ブロックマン氏との組織内対立でした。表向きは「AI安全性の考え方の違い」ですが、記事を読み込むと人事評価への不満や経営方針のすれ違いが積み重なった結果だとわかります。
ここで私が気になったのは、「ベンダーを選ぶとき、その会社の内部事情まで見ているか」という点です。
国防総省案件が示すベンダーの姿勢の違い
記事では、AnthropicとOpenAIがそれぞれ米国防総省との契約交渉に臨んだ経緯が触れられています。Anthropicは安全措置の撤廃を求められ、アモデイCEOが「脅しには屈しない」として交渉を決裂させました。一方でOpenAIはほぼ同じ制限条件のまま合意に至ったとされています。
これを受けてアモデイCEOは従業員宛てのメールで、「OpenAIが国防総省の職員をなだめることに関心があったのに対し、自分たちは実際に乱用の防止に関心があった」と記しています。さらにOpenAIの主張を「真っ赤なうそ」と表現して批判したとも報じられています。
さすがに「真っ赤なうそ」という言葉はどちらの立場から出ても強すぎると感じますが、この一件は私たちのようなエンタープライズ向けのAI調達に直接関わる話です。安全性に対するベンダーのスタンスが、大型の政府案件でどう試されるか。その結果が公になっているわけです。
ベンダー評価で今後チェックしたいこと
私が率いる部署では現在、CRM連携や営業資料の自動生成にAIツールの試験導入を進めています。部下25名のうち、先行して使わせているのはデジタル推進チームの8名です。Claude系のAPIとOpenAIのAPIの両方を並行評価している状況ですが、今回の報道を受けて評価軸の整理が必要だと改めて感じました。
- セキュリティ・安全性に関するベンダー側の公式ポリシーの変遷
- 政府・規制機関との契約姿勢(妥協の範囲をどこに置くか)
- 経営陣の発言と実際の製品仕様の整合性
- 競合との対立構造がサービス継続性にリスクをもたらす可能性
このリストを稟議書の「リスク評価」欄に落とし込むのは、そう難しくありません。ただ、経営陣への説明ではここまで細かく書く必要はなく、「主要ベンダー2社の安全ポリシーを比較検証した結果、X社を推奨する」という一文で十分です。細かすぎる議論は稟議の審議時間を伸ばすだけですから。
もう一つ気になった点があります。OpenAIとAnthropicの確執は2016年まで遡るとされており、今年2026年時点で約10年続いているわけです。先日、妻に「なんでAIのニュースばっかり読んでるの」と言われましたが、業界を動かしている人間関係の文脈を知らずにベンダー選定はできない、と答えました。半分は本気です。
組織の意思決定というのは、表に出ている製品スペックよりも、内側の人間関係や価値観の衝突で形作られることが多い。ベンダーも同じです。今回の報道はウォール・ストリート・ジャーナルによる250人以上へのインタビューに基づいており、単なる憶測ではありません。その重みはあります。
投資対効果の議論より先に確認すべきこと
来月、経営会議でAIツール本格導入の投資対効果を報告する予定があります。ROIの試算はすでに完成していますが、今回の記事を読んで、ベンダーの安定性と安全ポリシーの継続性についても一項目追加しようと決めました。
「このベンダーは3年後も同じ方針でサービスを提供しているか」という問いは、コスト削減効果の数字と同じくらい経営陣が気にするポイントのはずです。少なくとも私の会社の役員はそう言います。
AIの能力比較だけでなく、ベンダーの組織的な信頼性をどう評価するか。その軸を持っているかどうかで、導入後の安心感がずいぶん変わってくるはずです。