Metaの3750億円裁判が、デザイナーの私に刺さった理由

林 美里
林 美里 30代・ フリーランスデザイナー
先日、ニューメキシコ州司法長官がMetaに3億7500万ドル(約550億円)の賠償を勝ち取ったというニュースを読んだ。でも正直、最初は「またMetaが訴えられたか」くらいの温度感だった。

ところが、記事を読み進めるうちに手が止まった。裁判の第二フェーズで州側が求めているのが、「18歳未満への端対端暗号化の禁止」「月90時間の利用上限」「無限スクロールやオートプレイの制限」という、プラットフォームの設計そのものへの介入だったから。

プラットフォームの設計を変えろ、という話



司法長官のトレス氏は「3億7500万ドルでもこの規模の会社には足りない。ビジネスのやり方そのものを変えたい」とコメントしている。つまり、お金を払って終わりじゃなく、Instagram・Facebook・WhatsAppの仕様を変えろという要求なのだ。

これを読んで私がまず思ったのは、無限スクロールとオートプレイって、デザイナーが設計する機能だよな、ということだった。自分もWebサイトやアプリのUIを組むとき、「ユーザーが離脱しないように」という理由でそういった要素を提案することがある。依頼されることもある。

それが今、法廷で「公衆衛生上の有害物」として問われている。

道具を作る側の責任、どこまで?



デザイナーとして、私はずっとこういう問いを棚上げにしてきた気がする。クライアントの要望を形にするのが仕事だし、エンゲージメントを高める設計がプロの証みたいな空気があった。でも「滞在時間を伸ばす」「離脱を防ぐ」って、誰の利益のためなのかを考えると、答えが濁る。

AIデザインツールが普及して、以前は数時間かかっていたビジュアル生成が数分でできるようになった。MidjourneyでもAdobe Fireflyでも、アイデアをすぐ形にできる。それ自体はすごく便利だと思っている。でも、速くなった分だけ「これでいいのか?」と立ち止まる時間が短くなっている感覚もある。

手を動かす時間が少なくなると、設計の意図を自分でちゃんと言語化できているかが怪しくなる。「なぜこのUIにしたか」を問われたとき、「AIが出してきたから」では困る。クライアントにも、ユーザーにも、自分にも。

「自分が消える」じゃなくて「考えるのをやめる」が怖い



私は以前から「AIに全部任せると自分が消える」という怖さを持っていた。でも今回の記事を読んで、もう少し解像度が上がった気がする。消えるのは「スタイル」じゃなくて「判断」かもしれない。

無限スクロールを設計する。それが誰かの時間を奪うかもしれないと知りながら、依頼だからと形にする。AIツールを使えば速く美しく仕上がる。でも「これ、本当にいいのか」と問う工程が抜けたまま納品する。そのループが一番怖い。

裁判でMetaが問われているのは設計の意図だ。「ユーザーを引き留めるために意図的にそう設計したか」という点が争点になっている。フリーランスのデザイナーが法廷に立つことはないとしても、同じ問いは自分の仕事にも向けられるべきだと思った。

来週、長めに付き合っているECクライアントとのリニューアル打ち合わせがある。カート離脱を減らすためのUI改善の話が出ているが、そこで一度「なぜ離脱するのか」を丁寧に掘り下げてみるつもりだ。速く形にする前に、考える時間を自分でちゃんと確保する。それが今の自分に必要なことだと思っている。

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