Googleがツールを畳んだ日に考えたこと

林 美里
林 美里 30代・ フリーランスデザイナー
Googleが「Project Mariner」を2026年5月4日に終了した、というニュースを読んだ。
ランディングページには「ご利用ありがとうございました。その技術は他のGoogleプロダクトへ旅立ちました」という一文が残っている。
なんか、静かだなと思った。

Project Marinerは2024年12月に発表されたAIエージェントで、ウェブ上のタスクを自動でこなしてくれる実験的な機能だった。
メールのアーカイブやホテルの予約まで、10個のタスクを同時並行で処理できるようになっていた。
その機能はGemini AgentやAI Modeに吸収され、ツール自体は静かに消えた。

「便利」が溶け込んでいく感覚



私がこのニュースで引っかかったのは、終了そのものじゃない。
「技術は他の製品に旅立った」という表現だ。
ツールは消えても、能力は別の場所で生き続ける。

これ、デザインの仕事でも同じことが起きていると思う。
MidjourneyやAdobe Fireflyを使いはじめた頃は「これは別のツール」という感覚があった。
でも今は、ワークフローのどこかに自然に溶け込んでいて、どこからどこまでが自分の判断なのかが曖昧になってきている。

「私がやった」と言えるラインはどこか



クライアントにロゴを納品するとき、私はどこまで「自分が作った」と言えるのか。
これが最近ずっと頭にある問いだ。
AIで出したラフ案をベースに、色・字体・余白を全部自分で詰めたとしても、「AIに作らせたんでしょ」と思われたら何も言い返せない気がしてくる。

でも逆に、全部手で起こしても、フォントはAdobe、配色はCoolors、モックはFigmaのプラグイン……となると、どこが「自分」なんだという話にもなる。
たぶん、ツールが何かという問題じゃない。
判断の連鎖が自分の中にあるかどうか、だと思う。

Project Marinerが「タスクを10個同時に処理できる」ようになったとき、GoogleはそれをAI Modeに組み込んだ。
ユーザーは特に意識しないまま、その能力を使うことになる。
便利さが透明になっていく、という感じ。

デザインツールも同じ方向に進んでいる。
「AIを使っている」という感覚がなくなるくらい自然に組み込まれたとき、私はどう自分の仕事を説明するんだろう。

消えないために、残すもの



ひとつ決めていることがある。
AIに任せる工程と、自分が手を動かす工程を、意識的に分けること。
Fireflyでテクスチャを作っても、最後の調整は必ず自分の目と指でやる。
その「なぜこの色にしたか」「なぜここに余白を取ったか」を言語化できる状態にしておく。

クライアントへの説明でも、値段交渉でも、自分の仕事の根拠を話せることが唯一の武器だと思っている。
ツールが何かは関係ない。
判断の理由が自分にあるかどうか、だ。

Project Marinerが静かに消えて、その技術が別の場所で動き続けるように、私が使うツールもどんどん入れ替わっていく。
そのたびに「で、自分は何をしたの?」と問い直す習慣だけは、手放さないでいたいと思う。

あなたは、AIツールを使った仕事の「自分がやった部分」をどうやって言語化しているだろうか。

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