AIが数学を解く時代、デザイナーの私はどこにいる

林 美里
林 美里 30代・ フリーランスデザイナー
Google DeepMindが発表したAlphaEvolveというAIの記事を読んで、しばらく画面の前でぼんやりしてしまった。

AlphaEvolveはGeminiを搭載したコーディングエージェントで、数学や計算科学の未解決問題に対して新しい発見をしたり、Googleの重要インフラで動くアルゴリズムを最適化したりしている。要するに、AIが人間の専門家でも解けなかった問題を解き始めている、という話だ。

最初は「コードの話でしょ、デザインは違う」と思った。でも読み進めるうちに、そうとも言い切れない気がしてきた。

「補助ツール」だと思っていたものが、主役になりかけている



私がMidjourneyを使い始めたのは、あくまで「方向性を素早く見せるためのスケッチ代わり」だった。クライアントに3案見せるとき、ラフを手で描く時間を短縮するためのもの。そういう使い方なら、自分の判断軸はちゃんと残せると思っていた。

でも最近、クライアントから「前回みたいなAI画像でいいですよ」と言われることが増えた。そのひと言が、じわじわと効いてくる。

AlphaEvolveの記事には「アルゴリズムは生活のほぼすべての側面に関わっている」という一文がある。デザインだって同じだ。ロゴもブランドカラーも、WebのUIも、突き詰めれば「どう見えるか」という問題を解くプロセスで成り立っている。AIがそのプロセスを高速で回せるようになったら、私が時間をかけて考えることの価値はどこにある?

「自分が消える」恐怖の正体



使わないと競合に負ける。これは本当にそう思う。Adobe FireflyはCC内に組み込まれていて、もう使わない選択肢はほぼない。ツールとして普通に使っている。

でも「全部任せたら自分が消える」という感覚も、同じくらいリアルだ。この感覚の正体を言語化しようとずっと考えていた。

たぶん、それは「判断する機会が減る」ことへの恐怖だと思う。フォントを選ぶとき、余白を決めるとき、色の組み合わせで迷うとき。そういう小さな判断の積み重ねが、自分のデザインの眼を育ててきた。AIに任せるほど、その練習量が減る。

AlphaEvolveが数学の未解決問題を解けるのは、人間が積み上げてきた膨大な知識を学習しているからだ。私が5年で積み上げてきた判断の感覚は、自分がアウトプットし続けることでしか維持できない。

AIを使いながら、自分の判断を手放さないこと。言葉にすると簡単だけど、実際の仕事の中でそのバランスを保つのは思ったより難しい。

来週、久しぶりにAIなしでロゴの初稿を1本仕上げてみるつもりだ。スピードは落ちる。でも自分の中にまだ何が残っているか、確かめたくなった。

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