「No」と言える人が、仕事の質を守る

林 美里
林 美里 30代・ フリーランスデザイナー
任天堂の元社長レジー・フィルス=エイメが、NYUの講義でこんな話をしていた。

DS時代、Amazonが任天堂に「ウォルマートより安く売るための資金援助をしてくれ」と要求してきた。その額が「常識外れ(obscene)」なほどで、レジーは担当者にこう言ったそうだ。「それって違法だって知ってますよね?」

結果、任天堂はAmazonへの販売を完全にストップした。その判断について彼はこう言っている。「違法なことはしない。他のリテーラーとの関係を危険にさらすことはしない。でもそれが、長い目で見て信頼を築くことになった」と。

断ることで守れるものがある



この話を読んで、正直ドキッとした。

私もフリーのデザイナーとして5年やってきて、「No」を言うのがどれだけ難しいか、身に染みてわかる。特にAIツールが普及してきてから、その難しさがまた違う形で出てきている。

クライアントから「AIでロゴ作れるんでしょ?だから安くできるよね?」と言われることが増えた。MidjourneyやAdobe Fireflyを使えば、確かに制作時間は短縮できる場面もある。でもそれをそのまま「はい、値引きします」と受け入れたら、自分が積み上げてきたものが崩れていく感覚がある。

AIを使うことと、自分を消すことは別の話



ツールが変わっても、判断しているのは自分だ。

どのフォントを選ぶか、どの色がそのブランドに合うか、クライアントが言語化できていないニーズをどう拾うか。そこにAIは入ってこない。入ってこれない。

でも「AIを使ってます」と言った瞬間、その判断の価値ごと値切られる空気になることがある。だから最近は、AIを使うかどうかより先に、自分がどこに価値を置いているかをちゃんと言語化しておくことが大事だと思うようになった。

レジーが言っていた「長い目で見て信頼を築く」という言葉が刺さったのも、そこだと思う。その場で受け入れれば短期的には仕事が続く。でも筋の通らない要求を飲み続けると、結果的に自分がどんな仕事をしたい人間なのかが、クライアントにも自分にも見えなくなる。

Amazonは後に任天堂と関係を修復して、今ではSwitch 2もAmazonで買える。断ったことが終わりじゃなかった。むしろそこから対等な関係が始まったという話だと思う。

自分も、次に「AIがあるから安くできるでしょ」と言われたとき、もう少しちゃんと自分の言葉で返せるように準備しておこうと思っている。

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