AI活用が11位から5位に。顧問先に何を伝えるか

伊藤 健太
伊藤 健太 40代・ 社会保険労務士
日本能率協会が530社の経営者に聞いた調査を読んで、少し手が止まりました。「デジタル技術・AI活用」という経営課題が、2024年度の11位から2025年度には5位へ一気に上がっていた。「収益性向上」48.5%、「人材の強化」46.2%に次ぐ位置まで来ているわけです。

社労士として顧問先30社を回っていると、この数字の重さが実感としてわかります。去年まで「AIって何かすごいやつですよね」と笑っていた製造業の社長が、今年に入って「同業者がなんか使い始めたらしい」と言い出した。そういう変化が、確かにあります。

顧問先の経営者が感じている「置いてかれる感覚」



私が担当している顧問先には、従業員30人前後の食品加工会社や、スタッフ20名ほどの介護事業者、あとは地場の建設会社が何社かあります。経営者の年齢層は50代が多い。ITには決して強くないけれど、経営感覚は鋭い方ばかりです。

その方々が最近、助成金の相談と一緒に「AI、うちで使えますかね」と聞いてくるようになりました。きっかけは様々で、取引先の大手が「業務効率化の取り組みを共有してほしい」と言ってきたとか、採用の場面で求職者から「御社のDX推進は?」と聞かれて答えられなかったとか。

正直なところ、私も完璧な答えは持っていません。e-Govの電子申請でさえ、未だに操作でつまずくことがある。ただ、社労士として見ていると、AI活用と労務管理はかなり近いところにある話だな、と感じています。

労務の現場でAIが刺さる場面は具体的にある



就業規則の改定作業がその典型です。労働基準法では就業規則の絶対的記載事項が定められていて、改定のたびに条文を見直す作業が発生します。顧問先ごとに業種・規模・労働時間の形態が違うので、一つひとつ丁寧に確認しないといけない。この「たたき台を作る」部分は、AIが下書きを出してくれると作業時間がかなり変わります。

採用書類の確認も同じです。求人票の記載が労働条件通知書と食い違っていないかチェックする作業は、文書を読み比べるだけなので集中力を使う割に付加価値が低い。ここをAIに任せられたら、その分を顧問先との対話に充てられます。

先日、介護事業者の顧問先でこんなことがありました。パート従業員の契約更新時期が重なって、20枚近い労働条件通知書を一気に作らないといけない状況になった。担当スタッフが「もう終わらないかもしれない」と半泣きで電話をくれた。その場は私も入って何とかしましたが、この作業こそテンプレートとAIで半分以下の時間にできたはずです。

「試行段階から実践ステージ」という言葉の重さ



調査の中に「試行段階から実践ステージになった」という表現がありました。この言葉、顧問先に伝えるときにそのまま使えると思っています。

試している段階の人と、使いこなしている人の間には、今まさに差が開き始めています。採用の場面でいうと、求人票の文章をAIで複数パターン生成して反応を見る、という話をすでにやっている同業の知人がいます。うちの顧問先の建設会社は慢性的な採用難で、毎月のように「いい人いませんか」と言われている。この状況を少しでも変えるために、採用文書の品質を上げることは地味だけど効きます。

一方で、AIに何でも任せればいいとも思っていません。労使トラブルが起きたときの対応や、従業員との面談は、人が直接やるしかない。就業規則上の解釈問題は、条文だけ読んでも背景にある判例まで押さえないと判断を誤ることがある。そこは社労士が責任を持つ部分です。

要は、AIが得意な「量をこなす作業」と、私が得意な「判断と対話」をうまく分けることです。顧問先の経営者も、その整理ができると「うちで使えますか」という漠然とした問いに、少し答えを出しやすくなると思います。

次の巡回訪問では、この調査の数字を一枚プリントアウトして持っていくつもりです。「同じ悩みを持つ経営者が、去年より明らかに増えている」という事実を、まず共有するところから始めようと思っています。

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