先週、ITmedia に出ていた GPT-5.6 の記事を読んで、少し立ち止まりました。OpenAI が新モデルを発表する段階で、米連邦政府の要請を受けて全面公開を見送った、という話です。フラッグシップの「Sol」を筆頭に、「Terra」「Luna」の3モデルで構成されていて、まずは信頼できる少数のパートナーへの限定プレビューから始めるという段取りです。OpenAI 自身は「こうした政府によるアクセス確認のプロセスは恒久的な標準になるべきでない」とコメントしています。
これを読んで最初に頭に浮かんだのは、「また説明材料が増えた」という感覚です。悲観的な意味ではありません。私が管轄している営業 DX 推進という仕事では、ツール選定のたびに経営陣への説明資料を作ります。そのたびに求められるのが「セキュリティ上の根拠」と「投資対効果の数値」の二点です。今回の件は、前者の説明に使える事例として頭に入れておこうと判断しました。
部下が「使ってみたい」と言ってくる場面
部下25名のうち、ここ半年で特に AI ツールへの感度が上がってきたのが若手の5名ほどです。「ChatGPT の新しいモデルが出ましたよ」と声をかけてくるのはほぼ毎回この層です。気持ちはわかります。新しいツールを試したいという好奇心は素直に良いことだと感じています。ただ、私の立場では「面白そうだから試そう」で予算を動かすことはできません。
今回の GPT-5.6 でいえば、Sol のトークン単価はインプット100万トークンあたり5ドル、アウトプットが30ドルという設定です。Terra はその半額。どのモデルをどのユースケースに当てるかによって、年間コストの試算が大きく変わります。こういう数字を拾って先に計算しておくのが、私の役目だと思っています。部下が「使いたい」と言い出す前に試算を持っておく。それが稟議を通すための最低ラインです。
セキュリティ要件の説明が今回特に使いやすい
社内のセキュリティ部門からは、常に「外部 API にどんなデータを送るのか」を問われます。これは正当な問いです。特に製造業という業種柄、設計データや取引先情報が絡む場面では、経営陣も当然神経質になります。
今回 OpenAI が取った「限定パートナーへの先行提供」というアプローチは、裏を返せば一定の信頼検証プロセスを経た相手にしか開放しないという姿勢です。これは稟議書の「リスク対応」欄に書けるネタです。また、今回の全面公開見送りの背景にはトランプ政権下の行政命令があり、AI の安全保障上の懸念が直接的な要因になっていると報じられています。こうした外部環境の動きを把握しておくことで、「なぜ今このベンダーを選ぶのか」「なぜ慎重に段階導入するのか」という説明の厚みが変わります。
先月、社内のセキュリティ担当役員から「AI ツールを使う前提で何か稟議が来たら、先に私に相談しろ」と直接言われました。その意図は牽制ではなく、「騒ぎになる前に一緒に根回しをしたい」という意味だと私は受け取っています。あの会話以来、AI 関連の動向は情報共有の観点からも丁寧にウォッチするようにしました。
ベンダー提案を評価するときの視点
今後 GPT-5.6 が ChatGPT や API を通じて広く提供されるようになると、ベンダー各社の提案書にも「GPT-5.6 を使った機能」が登場してくるはずです。実際、今期だけで4件のベンダー提案を受けていますが、そのうち2件はすでに最新モデルへの切り替えを「追加費用なし」と謳っています。
こうした提案を評価する際に注意しているのは、モデルの新しさよりも「どのモデルをどの処理に使っているか」の透明性です。Sol・Terra・Luna のように、精度とコストのトレードオフが明確に設計されているなら、ベンダーがその使い分けを説明できるかどうかが判断の基準になります。説明できないベンダーは、コスト最適化を考えていないか、単に最新を売り文句にしているだけです。
今週末、同業他社の DX 担当者と久しぶりにゴルフの予定があります。非公式な場での情報交換は稟議書には書けませんが、現場感覚のキャリブレーションとしては欠かせません。GPT-5.6 の話も出るかもしれないので、今回の記事の内容は頭に入れておきます。
モデルの進化のスピードは今後も落ちないでしょう。社内の稟議サイクルがそのスピードについていけるかどうかは、正直まだ自信がありません。まず今期の導入案件で、説明の型を一つ仕上げることを優先しようと思います。