先月、顧問先の居酒屋チェーンを経営している板橋社長から、こんな連絡が来ました。「先生、最近『ハルシネーション』って言葉をニュースで見たんですけど、これって何ですか?うちの店でAI使うときに気をつけないといけないですか?」
こういう相談、本当に増えました。顧問先は飲食から建設、クリニックまで15社ほどお付き合いがありますが、ここ1年でIT関連の質問がざっくり3倍になった感覚があります。特に「聞いたことあるけど意味がわからない」という用語の相談が多い。
板橋社長は3店舗を回す忙しい方で、スマホは使いこなしているけどITは専門外、という典型的な経営者です。AIという言葉は知っていても、ハルシネーション、AIエージェント、RAGといった周辺用語になると途端に「?」が並ぶ。私自身はクラウド会計を当然のように使うので、そのあたりの用語はある程度追えていますが、正直、自分でも「なんとなくわかる」で止まっている言葉はまだあります。
「1行でわかる」という割り切りがちょうどいい
先日、柳井政和さんが書いた『基本が身に付く+トレンドがつかめる 1行でわかるIT用語図鑑428』という本を知りました。インプレス刊、2,178円、312ページ。章立てを見ると、AIに関わる重要用語、セキュリティ用語、システム開発の基本、ネットワーク通信の仕組みと、全部で428用語をカバーしています。
この本が狙っている読者として「IT業界の取引先や社内の技術部門とスムーズにやり取りしたい人」が挙げられていて、それを見たとき、思い当たる顔が何人か浮かびました。板橋社長もそうですし、最近freeeを導入した建設業の松田社長も、「API連携ってどういう意味ですか」とよく聞いてくれます。
イラスト図解つきで1行解説から入る構成は、忙しい経営者向けに読み聞かせるには悪くない。私が「ハルシネーションというのはAIが事実と違うことを自信満々に答えてしまう現象です」と説明するよりも、ビジュアルで見せる方が頭に残ることも多いです。
顧問先に「これ読んでみてください」と言えるか
正直に言うと、税理士として顧問先に本を勧めることにはちょっと慎重です。「先生に言われたから読んだけど難しくてわからなかった」になると、かえって信頼を損ねる。だから、どんな方に向くかは考えます。
今の顧問先をざっと思い浮かべると、向きそうな方はこのくらいでしょうか。
- 社員とのミーティングでIT用語が飛び交うようになってきた経営者
- DXやAI導入を検討し始めているが、業者の説明が半分しかわからない方
- ご自身でSNSやクラウドツールを使い始めて「もう少し理解を深めたい」と言っている方
板橋社長はぴったり当てはまります。3店舗のオペレーションを回しながら、最近はAIを使ったシフト管理ツールも検討中と言っていたので、ベンダーとの打ち合わせで出てくる用語を最低限押さえておくと話が早いはずです。
一方で、松田社長の会社は社員が20名ほどいて、現場の職人さんが多い環境です。ITより現場の段取りや原価管理の話の方が刺さるので、この本を勧めるのは今じゃないかなと思っています。
IT用語の話をするとき、私がいつも意識しているのは「この方はどこまで知りたいのか」という点です。全部わかる必要はなくて、自分の判断に必要な部分だけ理解できればいい。顧問先の社長が「ハルシネーション」を完全に説明できなくていい。「AIは間違えることもあるんだな、だから確認が必要なんだな」とわかれば十分です。
税理士として顧問先に関わるとき、数字だけじゃなくてこういう「ちょっとした翻訳」が求められる場面が増えています。IT用語を自分が理解しておくことで、その翻訳の精度が上がる。板橋社長への返信を書きながら、この本を自分用に一冊買っておこうかと思い始めています。