「なめらかさ」が正解じゃなかった話

林 美里
林 美里 30代・ フリーランスデザイナー
航空工学の話を読んで、妙に引っかかった。

表面はなめらかなほど空気抵抗が少ない。80年以上、それが当たり前だった。でも東北大学の矢野愛子准教授らの研究グループが、微細なランダムな凹凸を表面につけることで空気抵抗を最大43.6パーセント下げられると世界で初めて実証した。あの「なめらかが正義」という前提が、全部ではなかった。

これ、デザインの話じゃないか。そう感じてしまった。

AIで「なめらかな」アウトプットを出せる時代



MidjourneyやAdobe Fireflyを使い始めて、出てくる画像のクオリティに毎回びっくりする。プロンプトをうまく書けば、ポートフォリオに載せても恥ずかしくないビジュアルが数秒で生まれる。クライアントへのラフ提案も早くなった。正直、便利だ。

でもその「なめらかさ」が怖い。

AIが出してくるアウトプットは、どこかで見たことがある「正解っぽいもの」の集積だ。バランスが整っていて、色も悪くなくて、文句も言われにくい。でも誰の仕事かわからない。パートナーに「これどっちがAIの?」と聞かれて、自分のデザインも指さされたことがある。そのとき、ちょっと怖いと感じた。怖いというか、痛かった。

「凹凸」がクリエイターの個性だとしたら



航空工学の話に戻ると、ポイントは「完全なランダムな凹凸」が整流作用を生んで、乱流への移行を遅らせるということだった。なめらかな表面よりも、意図的ではない微細な引っかかりが、かえって機能した。

ここで迷う。クリエイターの「凹凸」って、何だろう。

自分の場合、活版印刷への偏愛だったり、特定の美術館の展示で受けた影響だったり、手芸をしながら考えた配色の感覚だったり、そういうちょっとズレた部分だと思っている。AIがならしてくれる前の、整理されていない手触り。でもそこに時間をかけることを、最近サボっていた気がする。

独立5年目で、仕事の流れが少しできてきた。ロゴ制作1件の単価を上げたくて、提案スピードを上げるためにAIに頼ることも増えた。効率は上がった。でも気がつくと、自分がどんなデザインを好きなのかを考える時間が削れていた。

先月、あるクライアントのブランディング案件でMidjourneyで方向性の候補を10案出した。クライアントは喜んでくれた。でも自分は「これ、自分じゃなくてよかったかも」とぼんやり思った。その感覚をパートナーに話したら、「それってお前が消えてるってことじゃないの」と言われた。割と刺さった。

なめらかでない部分を、意図的に残す



Tani Ichiroという日本人の空気力学者が1940年に発表した研究が、80年以上の前提をつくった。彼自身も1989年に自分の解釈を修正している。一人の研究者が、数十年越しに自分の前提を疑い直した。

そこが地味にすごいと思う。

自分も今、似たようなことを考えている。「AIを使えば速い」は正しい。でも「速いほどいい」は、全部の場面では正しくないかもしれない。DMRが空気抵抗を43.6パーセント下げた仕組みは、整流を「邪魔する」ことで逆にうまく機能させた。微細な引っかかりが、乱流への移行を遅らせた。

自分のデザインの「引っかかり」を、消しすぎているかもしれない。

AIがならす前の段階、プロンプトを打つ前に自分が何を感じているかを言語化する時間を、もう少し取ろうと思っている。

  • クライアントへの初回提案の前に、自分のスケッチを必ず1枚入れる
  • AIの候補から選ぶだけでなく、「これは違う」と捨てる理由を言葉にする
  • 月に1回は美術館か展示に行って、ただ眺める時間をカレンダーに入れる


たいしたことではない。でも「凹凸」を意識的にキープする習慣として、続けてみるつもりだ。なめらかさは武器だけど、それだけにしたくない。

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