AIに使われるより、AIで「自分」を拡張する話

林 美里
林 美里 30代・ フリーランスデザイナー
OpenAIが先日「ChatGPT Futures Class of 2026」という取り組みを発表した。2022年の秋にChatGPTと同時期に大学に入学した26人の学生たちを表彰するプログラムで、各自に1万ドルのグラントが贈られる。

その中の一人、カナダのウォータールー大学の学生カイル・スセナ(24歳)がこんな言葉を残している。「問題に気づいてから、実際に何かを作るまでの距離がこんなに短くなるとは思っていなかった」。

これを読んで、正直ちょっとザワっとした。

「消える」のが怖いのは、たぶんこういうことだ



私はフリーのデザイナーとして5年やってきた。MidjourneyもAdobe Fireflyも使っている。使わないと競合に負けるのはわかってる。でも、どこかで「全部任せたら自分が消える」という感覚が抜けない。

その感覚の正体がずっとうまく言語化できなかった。でも今回の記事を読んで、少し整理できた気がした。

あの学生たちが怖くないのは、「AIで何かを作る」を目的にしていないからだと思う。彼らはAIを使って、自分が解きたい問題を解いている。障害のある同級生のためのアクセシビリティツールを作ったり、資源の少ないコミュニティのためにメンタルヘルス情報を翻訳したり。AIはその手段であって、主語は自分のまま。

一方で私はどうか。気づいたら「Midjourneyでどんな画像が出せるか」を試す時間が増えていた。ツールを探求しているようで、実は主語がツールになっていた。

道具を使いこなすことと、道具に操られることの違い



表彰プログラムの中でスミス・カレッジの学生ミシェル・ローソン(20歳)がこう言っている。「AIは私自身だけでなく、何十万人もの人々にとっても、可能性を現実にしてくれた」。

彼女の言い方が好きだ。「AIが何かをしてくれた」ではなく、「自分が信じていたことを、AIが後押ししてくれた」というニュアンス。主語がちゃんと自分のまま。

デザインの仕事で言うと、クライアントに「なんでこのロゴなのか」を説明できる理由は、私の中にある。美術館で見た版画の構図が頭に残っていたから、とか。活版印刷の手触りがベースにあるから、とか。そこはAIには作れない文脈だ。

AIが上手いのは、その文脈を形にするスピードを上げること。そこを勘違いすると、形だけ速くなって中身がスカスカになる。

ブランディングの仕事でそれをやると、クライアントはなんとなく違和感を感じる。言語化はできないけど、「なんか薄い」という印象になる。それは私も感じるし、クライアントも感じる。

「消える」という感覚の正体は、たぶんこれだ。道具に主導権を渡したとき、自分の文脈が薄れていく感覚。

だから解決策は「AIを使わない」でも「全部任せる」でもない。自分の文脈をちゃんと持ちながら、AIを速度と精度のブースターとして使う。そのバランスを意識し続けること。

簡単じゃないし、毎回揺らぐ。でも揺らぎながら使い続けるしかないんだと思う。

今週、あるロゴ案をMidjourneyで出してそのままクライアントに見せた。反応は悪くなかった。でも自分の中で何か引っかかった。来週は同じ案件で、先に自分でラフを描いてからAIに展開させてみようと思っている。

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