先月、顧問先の佐々木建設の佐々木社長から珍しい相談が来ました。「先生、うちの営業って誰を狙えばいいんですかね」という一言です。従業員15名、年商3億円ほどの内装工事会社で、これまで紹介とリピートだけで仕事を回してきた会社です。展示会に出てみたけれど問い合わせはほぼゼロ。チラシを撒いたけれど反応がなかった。そういう「やってみたけどダメでした」系の相談が続いていました。
私はその相談を受けながら、最近読んだアドビのフィールドマーケティングマネージャー・松井真理子さんのインタビュー記事を思い出していました。2023年から2024年にかけて海外のマーケティング界隈で広まった「Goodbye MQL, Hello Buying Group」という言葉の話です。MQLというのはマーケティングで獲得した見込み顧客のことで、「とにかく数を集めよう」という発想のことを指します。それが終わって、「誰が買うかではなく、どんなグループが決定するのか」を考える時代になってきた、という話でした。
佐々木社長に「誰に営業すればいい?」と聞かれたとき、まさにここだと思いました。今まで佐々木建設は「問い合わせをくれた人」を相手にしてきた。でも本来は、「誰が発注を決めるのか」を先に考えるべきです。内装工事の発注であれば、たとえばオフィス移転を検討している会社の場合、総務部長が窓口になり、代表が最終決定し、場合によっては経理部長もコスト面で関わってきます。その3人全員に刺さらないと、商談は進まないわけです。
「リードをたくさん集める」より「正しい人に届ける」
松井さんの記事には、商談金額が数千万から億単位になるほど、購買グループを重視する傾向が顕著になるとありました。佐々木建設の案件は1件あたり500万〜1,500万円くらいのレンジです。決して個人が「じゃあ頼みます」と決めるスケール感ではありません。なのに、営業のアプローチは「担当者1名」に向けたチラシと展示会だったわけです。そりゃ刺さらないよな、と思いました。
私が佐々木社長に提案したのは、ターゲットを「会社」単位で考え直してほしい、ということです。たとえば、既存の顧客企業のうち2〜3回リピートしてくれているところを10社ピックアップして、その会社の中でまだ接点のない部署がないかを確認する。本社のオフィスはやったけれど、倉庫の改修はやっていないとか、別拠点の担当者と話したことがないとか、そういう「同じ会社の中の別のドア」を探してみようという話です。新規リードを100件集めるより、既存顧客の中にある機会を掘り起こすほうが成約率はずっと高いです。
税理士として「マーケ目線」を持つ理由
こういう相談を受けると、「それは税理士の仕事ではない」と思う方もいるかもしれません。でも私は少し違う考え方をしています。顧問先の業績が上がれば、税務の複雑度も上がるし、それに伴って顧問料の改定も自然に話せる。顧問先の成長に関わっていない税理士は、正直、数字を入力するだけの作業者と大差ないと思っています。だから、こういうビジネスモデルの話も普通にします。
佐々木社長は「そういう考え方、したことなかった」とすごく素直に言ってくれました。そこで一緒に既存顧客リストを見ながら、発注担当者と最終決裁者が同一人物かどうかを確認する簡単な整理をしました。たった1時間の作業でしたが、すでに3社、「別部署の担当者を紹介してもらえるかも」という候補が出てきました。
松井さんの記事には、マーケターに求められる要素のひとつとして「データ基盤の整備」も挙げられていました。顧客がどのチャネルで何を見ているか、データが欠損していたらコミュニケーションは最適化できない、という話です。佐々木建設レベルの会社でそこまでやるのは難しいですが、せめて「誰が決裁者か」「前回の工事から何年経つか」くらいは整理しておいたほうがいい。次の面談では、そのシンプルな顧客管理表を一緒に作ってみようと思っています。
BtoBマーケティングの最先端の話が、15名の内装工事会社にも普通に使えるということが、今回の一番の発見でした。あなたの会社の「既存顧客リスト」には、まだ話したことのない意思決定者が隠れていないでしょうか。